10 頼れる彼女
「俺、気づくのが遅くてごめん」
「気づくって…あ…」
瑞穂の部屋でベッドに座った。
「今日、三人でカラオケに行ったんだ。二人に言われたんだ。楽しかったって。俺も、本当はもっと再会を喜びたいと思ってた」
俺は瑞穂を見つめた。
「瑞穂のおかげだ。いつもありがとう。それに、遅くなってごめんなさい」
「…!」
瑞穂は目を見開いた。
「遅いなんて…でも、楽しめたなら良かったです。私、余計なお世話になってないですか?」
瑞穂は遠慮がちに聞いた。
「そんなことない。瑞穂はずっと俺のことを心配してくれて、俺が勝手に抱きしめたりしても文句一つ言わなくて…俺は瑞穂の気持ちに気づけなかったのにそれでも…」
瑞穂が俺の目の前に人差し指を立てた。
「住菱くんのことを心配することは当たり前です。抱きしめられて嫌な思いなんてしません。気づいてもらえないなら気づいてもらうまで私は諦めません」
優しく微笑んだ。
「住菱くんには幸せでいてほしいです。住菱くんには笑っていてほしいです。住菱くんが辛い時、笑えない時は私が住菱くんを変えてみせます」
瑞穂は俺の手をそっと包みこんだ。
「久しぶりに会えた友達といきなり言い争って辛い気持ちになるなんておかしいです。友達ならもっと仲良くしてほしい。そう思っていました」
そう言って俺の手を握った。
「私達も三菱さん達も大きな財閥の跡継ぎで複雑な環境にいます。悩むことも多いです。友達だけどライバル同士だから上手くいかないこともきっと多いです。でも、私はできる限り良好な関係を築きたいです」
俺は瑞穂の手を握り返した。
「瑞穂の言う通りだ。俺も三菱達と言い争ったり逃げたりするのは違うと思うんだ。でも、國元が瑞穂のことを狙ってると思ったら嫌でさ…俺のもとから瑞穂がいなくなったらすごく怖いんだ」
俺は微笑んだ。
「瑞穂も俺を守ってくれたよな…ていうか、俺はずっと瑞穂に守られてばっかなんだけど。ほんと俺って何もできな…」
「あーそれそれ!そうやってネガティブなこと言わないでください!」
「った!」
額に弾けるような刺激がした。瑞穂にデコピンされてしまった。
「私のことを守ってくれるよりも暗い顔されるほうがずっと嫌です。暗い顔するヒーローに守られたい人なんていません!」
「…!」
俺は目を見開いた。
「話さないといけないことを全て話すまで住菱くんは私を頼ってください。私は過去のことを知らないので迂闊に口を出すことはできません。自分で全て考えることはすごく疲れると思います。だから、私を抱きしめたくなったらいつでもしてください。私にできることならなんでもやります。むしろ、それくらいしかできないので」
そう言って苦笑いした。
「瑞穂のこと守れてないのに優しすぎるよ…」
「まずは自分を守ってくれる人に頼らないと誰も守れませんよ。今の住菱くんに誰かを守ることはできないので私に守られてください」
俺は握った手に少し力を入れた。
「もし、瑞穂に悩み事ができたらその時は俺が守って恩返しするから。必ず、絶対にだ。だから…こんな俺を守ってほしいです」
「言われなくてもわかってるし、こんな俺と言ったのでお仕置きです」
「った!」
またデコピンされてしまった。
「変にかっこつけなくても住菱くんはかっこいいことちゃんとわかってます。私にどんどん頼っていいのですよ!」
「…瑞穂のほうがずっとかっこいいよ」
頼れる瑞穂に微笑んだ。