6 怒らないの?
「いつもなら抱きしめてくれますよ?」
「はっ!?」
硝樺は口元を押さえた。
「瑞穂、わざわざ言わなくても…」
俺は苦笑いした。
「ま、まあいいですわ。瑞穂さんが嫌じゃなければ私は口出ししませんわ」
硝樺はそっぽ向いて腕組みした。
「怒られると思って頭撫でるに留めたのに抱きしめても怒られなかったのか」
ちょっと残念だった。
「あなた、私を何だと思っているんですの…」
硝樺は俺を睨みつけた。
「ほら、そういうとこ。抱きしめたりしたらそれこそ殺されると思った」
「ふん。一応、あなたは瑞穂さんの婚約相手ですし多少のスキンシップくらいで怒りませんわ」
「ふーん…」
俺は瑞穂を見た。
「今さらだけど抱きしめようか?」
「えっ!」
瑞穂は顔を赤くした。
「恥ずかしくないのですか…?」
「許してもらえるなら見せつけようと思う」
「無理矢理抱きしめようとしたら許しませんけど?」
硝樺の目が鋭くなった。
「いい?」
「い、いいですよ」
俺は瑞穂の体を抱きしめた。
「戻って来るの遅いよ」
「ごめんなさい…」
きゅっと服を掴まれた。
「俺が満足するまで離さないから」
力を込めて抱きしめた。
「なんですの…!見てるだけで暑くなってきますわ」
硝樺が手で仰いだ。
「見せつけるって言っただろ」
顔を上げて硝樺に向けてにやりと笑った。
「あなたは黙っといてください。私は瑞穂さんだけを見ているんです」
硝樺はふんと鼻を鳴らした。
「本当に恥ずかしくないのですか…?」
瑞穂が俺にもたれかかった。
「なんで?」
「硝樺さんに見られると恥ずかしいです…」
声が震えている。
「瑞穂さん…?」
硝樺が目を見開いた。
「は、離れます」
瑞穂は顔を赤くしていた。