11 気を休める
「カラオケって歌う場所なのですよね!」
安田が立ち上がった。
「本来、そうですけど」
「歌いませんか?」
マイクを取って俺に手渡した。
「いや、僕はいいですよ。知ってる歌なんて少ないですし」
「…それ、私もです」
安田はうなだれた。
「けっこう乗り気だったのに!?」
「…三井さんが来たことあると言うので、いろいろ知ってるかなと思ったのです」
不貞腐れながら言う安田。その姿に俺は笑ってしまった。
(カラオケ来てもアニソンしか歌わないからな。安田は知らないだろうし)
「笑わないでくださいよ!」
顔を赤くして訴える安田。
「無理に歌わないでくつろげばいいんですよ。誰も見てないんですから寝ることもできます」
そう言って俺はソファに寝転がった。
「行儀が悪いですよ…」
「俺達はただでさえ財閥跡継ぎで常に気が張っているんだから、こういう場所で疲れを取らないと」
俺は足を組んだ。
「三井さんは、私には思いつかないことを平然とやってのけます…」
安田は目を逸らした。
「隣、座っていいですか?」
「え、ああ…」
安田は俺の頭の隣に腰を下ろした。
(近すぎるだろ!!)
俺は目を瞑った。
「本当に寝るのですか?」
「う、うん…」
俺は瞼に力を込めた。
「では、寝顔見てていいですか?」
「は!?」
俺は飛び上がった。
「な、なんでそんなことを…!!」
俺は震えながら聞いた。
「私の疲れを取るためです」
「それがなんで俺の寝顔なんだ!」
俺は顔が熱くなってきた。
「私は眠くないので…」
「俺の寝顔見るくらいなら寝てろって!」
俺はそっぽ向いた。
(なんだこいつ…急に隣に座ってきたと思ったら…)
「では寝ます」
そう言って体を倒した。
「ダメだ!寝るな!!」
俺の理性がおかしくなるところだった。