8 プロ失格
「じゃあいいや」
俺は瑞穂の手を掴んで階段のほうへ歩いた。
「なんで階段に…」
誰もいない階段を降りて踊り場で立ち止まった。
瑞穂を壁際に寄せて、彼女に口づけした。
「間接キスの上をする約束だったでしょ」
瑞穂は顔を赤くして何も言わなかった。
「あれ?意外と照れてる?」
「突然されたら…心の準備が…」
瑞穂は目を逸らした。
「私はプロだとか言ってたくせに?」
「今思えば、硝樺さんは私より背が低いので背伸びするんです。だからキスされるなってわかっていたけど、住菱くんはわからなかった…!」
俺はにやりと笑った。
「プロ失格だな」
「…はい」
瑞穂は諦めて頷いた。
「ま、そんなことより駅行こうぜ」
手を取ってホームに向かった。
(次はいつ会えるだろうな…)
乗り換えた電車の中で一人思った。
(まだまだ夏休みはあるし…あと何回か会いたいな)
いつでも家に行っていいという許可はもらったので会いたくなれば会いに行ける。
(結婚すれば毎日会えるのにな)
まだ距離があるこの三年間。時間の流れが煩わしく感じた。
「夏休みの間ずっと泊まってもらえば?」
電車で考えていたことを夕食の時に飛鳥に話した。
「さすがに悪いだろ。瑞穂だって家族がいるわけだし」
「その家族に住菱も仲間入りするんでしょ」
「…」
俺は飛鳥を睨みつけた。
「それか住菱が泊めてもらうとか?」
「瑞穂の家に負担を増やすわけにはいかない」
ただでさえ今は従業員がいないのに俺が増えたら大変だ。
(でも、俺の家に来てもらえば瑞穂の家の負担は減るのか?)
そう思ったが、両親がどう思われるのやら。




