10 密室にて
「カラオケですか…」
安田について行ったらカラオケに案内された。
「個室のほうが話しやすいと思いまして」
「いや、そうかもしれないですけど…」
まだ付き合う前なのに密室に案内されるとは…。
「カラオケとかよく行くんですか?」
「初めて来ました」
「え?」
さらっと言うので驚いてしまった。
「言っておきますけど、カラオケみたいな密室に男と二人だけで行くのは危ないですよ。そこだけは注意してくださいね」
「…?はい」
うん。たぶんわかってない。
(財閥の娘だから行ったことないことに疑問は持たないけど、危険と知らないのはダメだろ)
俺はため息をついた。
「行ったことないのにどうしてカラオケを選んだんですか?」
部屋に入り、俺は聞いた。
「昨日クラスの皆さんが行こうって話していたので気になって…あと、個室ですし」
高校の入学祝いとか言ってなんか集まっていたな…。
「三井さんは来たことありますか?」
「俺はある」
必ず一人だったが何回か行った。
「…すごい」
安田が小さく呟いた。
「すごいなんてことありませんよ」
俺は苦笑いした。
「三井さんのご両親はこういった場所に行くことを許してくださるのですね」
「いや、そんなことないけど」
安田は驚いた顔をした。
「隠れて行っているだけです。バレたら絶対怒られますよ」
「…そういうところがすごいです。私には隠れてどこかに行こうなんてできません」
俺は俯いた。
「俺って、こんな感じで不真面目ですよ。安田さんは真面目だって言ってくれましたが実際そんなことなくて…」
安田は首を振った。
「それでも、私は三井さんが好きですよ。かっこいいです」
俺は顔を上げた。
(なんでそんなふうに言ってくれるんだ…?)
俺にはわからなかった。