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神さまの器〜母ちゃんと僕と、ときどき阿修羅〜最近、母ちゃんと阿修羅の距離感が近いのが気になるんだけど……  作者: 黒砂 無糖
阿修羅と母ちゃんと僕

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母ちゃんと阿修羅

黒月教えてよ


「黒月…何があったか教えてよ」



悠は、迷いのない瞳で俺を見ている。



——話すべきか



話すか否か、正直俺は迷っている。


阿修羅が話さないのに、思い出したとは言え

俺が話をしていい事だろうか?




「黒月、母ちゃんと阿修羅って、どんな感じだったの?」


悠を見ると、さっきまで困惑していた割に

どことなく楽しそうな雰囲気だ



——大丈夫そうだな



悠なら、変に歪んで捉える事は無いだろう。



「昔から、あの2人は変わらないよ」





——そう、たとえ記憶が無くなっていても







「ある時阿修羅は、半神の身体で帝釈天と酷くやり合ったせいで、ボロボロな状態で神社に辿り着いたんだ」


あの頃、阿修羅は無鉄砲過ぎだった。



生身の肉体で神とやり合うなど…

生きてるだけでも奇跡だった筈だ。



「かなり弱っていたから、神力が強い神代の神社に引き寄せられたんだ」




——俺もそうだったよな




「家の神社って、神力強かったんだね?」


悠は、感心しながら聞いている。




「阿修羅はその時、壊れかけた肉体にいたから、神力は弱る一方だったんだ」


肉体の器が壊れると、

半神のままでは、存在できなくなる。


 


「その時に、母ちゃんに憑依したの?」


悠は過去に、善子に阿修羅が憑依した事を

不思議に感じていたのか、前のめりだ




「そうだ。善子に発見された阿修羅は、魂を肉体から抜き、憑依して神力を回復した」


あの時は、かなり疲弊していたらしいから、

本当に、運が良かったんだ。




今考えると、運命的な出会いだったんだよな




「その間、阿修羅の肉体は社の中で、癒される迄、秘密裏に保護してもらっていた」


阿修羅の肉体の世話は、

話を聞いた爺さんから一任されて


善子が頑張っていたんだ…



「善子に出会った時、直ぐに阿修羅は、器を作る条件の娘だと気付いたんだ」


阿修羅は、物凄く驚いたと言っていたんだ

条件が合う女など、早々いないからな




「まだ幼いから無理だが、完全回復したら、契約だけは、するつもりだったんだ」




——器を作り神に戻るために




悠は、少しだけ嫌そうな顔をした。




——随分と気に入らないようだな




「だか、半神だった阿修羅の回復には、

かなり時間がかかったんだ」


あの時は、余程の事をして、

帝釈天を怒らせたんだろうな




「神力は、善子のおかげで回復するけど、帝釈天の術式のせいか、肉体の回復が中々しなかった」




——それが良かったのか、悪かったのか




善子に甲斐甲斐しく世話をされ、

忌憚のないやり取りを、阿修羅は好んだ




「ずっと2人は一緒だったからな、善子が、年頃になる頃には、阿修羅はすっかり絆され、気付けば自然と想い合っていたよ」



悠の顔が、心なしか明るくなった




「あの2人は付き合ってたの?」




——若者らしい発想だな



悠は、興味津々だが…




「想い合ってはいたが、人間同士と違い、付き合う事は、簡単では無かったんだ」


不穏な話の流れに、

悠は、しょぼんとした顔になる。





——本当に顔によく出る奴だ





悠の気持ちは、痛いほど良く分かるが、

俺はそのまま話を進めた


 



「人の時間の流れは早い」





悠は、ハッと目を見開いた。




——理解したようだな




「人と神は違うんだ」



悠は、俺の目を見て不安な顔をした。




——自分にも当てはまるはずだからな





「人と神、同じ時を過ごす事は叶わない」




悠は、ギュッっと目を閉じた。



——分かっていても辛い事だ




「二人は理解していたんだよ。ある時善子は、阿修羅が神に戻れるならと。自ら阿修羅の子を望んだんだ」



俺は、丁度その時側で見ていたんだ。



だから、阿修羅は俺に

悠に話す事を託したんだろう。




「阿修羅は反対したよ。器の母になると、愛し合った事を全て忘れた上で、善子は生涯独り身で、神と器に使える事になるから」



阿修羅が反対したことに、悠は驚いている。



俺は、あの時の阿修羅の悲痛な叫びが

未だに心に響くんだよ…




「器の作り方は、神の器以外が知ってはならない掟だから、記憶を消すんだ」


悠は固まったまま聞いている。




「阿修羅は、本当は、善子の幸せの為に、器を諦めて身を引くつもりだったんだ」



悠は、信じられないのか、呆然としている




「でも善子は、それを踏まえた上で、敢えてお前を望んだ」


 


——あの時の善子は、カッコよかったな




『愛した男は神に戻れるし、私は、忘れたとしても、愛した男との子を育てる事が出来るのよ?幸せな事じゃない』




ハッキリといい切った言葉を、

悠に教えてやったら




「母ちゃん…」


と、小さく呟いた。




「お前の母は潔かったよ」


そう言ってやると




「母ちゃんらしいね」



と、悠は穏やかに笑った。




「阿修羅の肉体が回復した後に、母は悠を宿した」


あの時の、二人は、本当に幸せそうだった。




「悠が、産まれる迄、阿修羅は人型になり、2人で、普通の夫婦の様に生活していたよ」


2人が共に暮らしていた事を伝えると




「え!本当?」



と、キラキラした目で見てきた。


俺は頷いた。




「悠が無事に産まれた日、阿修羅は『一度だけ』悠を抱き上げたんだ」


あんなに、優しい顔をした阿修羅を

俺は初めて見たんだ




悠は『一度だけ』の意味を理解したのか

真剣な顔になった。




「悠を抱き上げた瞬間、阿修羅は神に成り、善子への気持ちは、全てしまい込んだ」


——俺は、その時を側で見守って居た




「善子は、神となった阿修羅の手で…」


——ずっと2人を見て居たんだ


 


「愛し合った事実を、忘れさせられたんだ」


——2人には幸せになって欲しかった





「そんな…2人が可哀想だよ…」


悠は、少し泣きそうな顔をした。





「神の掟は絶対なんだ。例外はあり得ない」


仕方がない事だけど、辛いよな…






「悠、幸せだったか?」


あの後、辻褄合わせに苦労したんだ




「うん、でも…」


悠は、阿修羅の気持ちも、母の覚悟も感じたのだろう。戸惑い、揺れている。




「お前の母は、お前が幸せなら、幸せになる人だろ?」


——善子は強い女だ




「うん」


悠は頷く




「2人とも、幸せだったんだろ?」


2人のやり取りを見れば分かる。




「うん」


悠の目から涙がポツリと落ちた。




「阿修羅は、お前達が幸せなら、それだけでいいんだ」


悠は、下を向いたまま頷く



「その一言すら、阿修羅は善子に伝える事が出来ないんだ」


悠は、顔を上げこちらを見て頷いた。


阿修羅の気持ちを汲み取ったようだ




——良かったな阿修羅





「神とて心はある。それだけは覚えて居てくれないか?」



神としての立場は変える事は出来ない。


でも、神とて心が傷まないわけじゃない…




悠は深く頷き、涙を拭いた。




「ねえ、黒月、昔から、あの二人はあんなかんじだったの?」


悠は、悲しさを振り切って、

気持ちを立て直し



俺に、敢えて元気に尋ねて来た。




その気遣いに、俺の方が泣きたくなった。



「阿修羅いるんだろ?」


俺が悠を見てそう言うと、

悠はギョッとした顔をした。




「さっさと出てこい。悠に話してやれ」




阿修羅が話せない事は、俺が全て伝えた。


自分で話せる話は、自分で話すんだな







善子は阿修羅が憑依した事は記憶にあります。恋心を持った辺りから記憶がありません。


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