08. 婚約破棄のご褒美は
プーニーの一族は、山歩きの達人だ。
生い茂った緑に覆い隠された道を見つけるだけでなく、いろいろと人間にとって有用なものを発見することができる。特に――
「ぷい!」
かろうじてまだ道と呼べそうな場所を歩いていた時だ。
鳴き声を上げたプーニーが、とことこ、と駆けていった。
「あら? プーニー?」
シエリーの呼び声を無視して、ズボッと茂み中に鼻を突っ込むプーニー。
くるんと巻かれていた尻尾はまっすぐに伸び、ぶんぶんと左右に激しく振られている。興奮しているようだ。
その反応を見て、シエリーも茂みに駆け寄った。
「どうしたのプーニー? 何か見つけた?」
「ぷっ♪ぷっ♪」
「そのご機嫌っぷり…………まさか!」
覚えのある反応に、シエリーは慌てて茂みに顔を突っ込んだ。
プーニーと同じように地面に伏せて、彼女の鼻先を確認する……そして、思わず息を呑んだ。
そこには、キノコが生えていた。
傘の色こそ赤に白の斑と奇天烈だ。
『触れるな危険』という警告の気配を漂わせている。
しかし全体的にぷりっとした肉厚な姿は、人類に食するための勇気を奮い立たせるには十分だった。その名も――
「タベテミテヨダケ!!!」
キノコを地面からもぎ取ったシエリーは、瞳を輝かせながらその名を叫んだ。
高級食用キノコ『タベテミテヨダケ』。
その芳醇な香りと味で数多くの貴族を魅了してきたが、人工での栽培が難しく生育地も少ないため入手困難なのだ。
「キノコ界のスタールビーとも言われている珍品……誰にも取られずにいるなんて、この山じゃなきゃありえないわね。それにキノコ探しが得意なプーニーがいなきゃ……」
掲げた赤いキノコを見つめながら、シエリーがうっとりしていた時だった。
「ぷい!」と背後で声がした。
プーニーが、今度は別の茂みに頭を突っ込んでいる。ぴるぴる、と尻尾が機嫌よさそうに動いていた。
恐る恐るその尻尾に近づき、シエリーはまたも仰天した。
「待って……うそうそ! メチャウマッシュルームじゃないの!!! しかもたくさん!!!!」
煮てよし焼いてよし、古今東西のどんな調理法でもおいしく食べられる万能キノコ。その白くてまん丸な形状から、別名『落ちたほっぺ』と呼ばれている。
シエリーは、このキノコをいつもカゴいっぱい食べたいと思っていた。だが、こちらも収穫量が少ないレアなキノコである。
それが、茂みの中に群生していたのだ。
カゴいっぱいどころか、てんこ盛りになってカゴから溢れる量である。
予定より少し長くなったので更新を1回増やしました(すみません……!)
ラストを投稿する予定はそのままで、本日夕方に完結します。最後までよろしくお願いします!