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02. さようなら大好きだった婚約者

 シエリーの口から嫌悪の言葉がこぼれ出る。

 ドロイーネは、そんな言葉をシエリーから聞くと思っていなかったのだろう。「へ?」と間の抜けた声を上げて目をぱちくりさせている。


「し、シエリー? どうしたんだい君らしくないような……」


 ドロイーネのその問いかけがスイッチになった。

 シエリーから怒気が迸る。

 察知した周囲の貴族たちが、わずかに後ずさって距離を取るほどだった。浮気相手も(これはまずい……)という顔でドロイーネの背後に身を隠そうとする。


 気づかないのは、当の婚約者ばかり。

 それがシエリーの怒りの炎に余計な油を注ぎまくった。


「どうしたもこうしたも……私という婚約者がいながら、度重なる浮気。あまつさえこのような夜会の会場で、恥も外聞もなく、堂々とイチャイチャイチャイチャ――」

「いや、こっそり隠れてるから堂々ではないと思う……」



「お 黙 り や が れ く だ さ い」



 怒気をまとわせたシエリーの言葉の圧に、さすがのドロイーネも即座に減らず口を叩くのをやめた。叱られた子犬のような顔をしている……が、今は同情を誘うそんな彼の表情すらシエリーには通用しない。

 絶対に許すものか、とシエリーはもう心に決めていた。


「そういうことで、婚約破棄いたしました。どうぞ私ではない他の女性とお幸せになさってくださいませ……さようなら。ごきげんよう」

「そんなっ……! シエリー待って! 何度も言ってるかもしれないけど僕の本命は一人きり。正真正銘、君だけなんだって――わぷっ」


 捲り上げたカーテンを思い切り引いて、シエリーは追いすがろうとするドロイーネとの間に物理的な壁を作った。

 そのままの勢いで踵を返し、ドレスのスカートを翻して足早に立ち去る。


「行かないでくれ、シエリー!」


 絡まったカーテンをドロイーネが退けた時、シエリーはすでに人々の向こうに消えかけていた。

 慌てて追いかけようとする彼だったが、腕に浮気相手が「置いていかないで!」としがみついているせいで身動きが取れない。浮気相手からしても、こんなところに一人で置いていかれてはたまったものではないからだろう。必死である。


「ま、待ってよ……お願いだよ、シエリーーーーーーー!!!」


 いつもなら堪らず振り返っていたであろう、悲痛な婚約者の声。

 それを背中で聞きながら、シエリーは前だけを見て夜会の会場を後にした。





 こうしてシエリーは自ら婚約を破棄した。

 同時に、初めての恋も、きれいサッパリ終わらせたのだった。

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