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第1話 アンチドアマットヒロインは、物語を踏み潰す。

コンテストに挑戦したくて以前書いていたアンチドアマットヒロイン短編もの

『ドアマットヒロインに転生した女は不遇時代をショートカットしてざまぁ対象全員潰しますので背後にお気をつけて』

https://ncode.syosetu.com/n9005ix/

を連載版に書き換えてみました。

楽しんで頂ければ幸いです。

 ドアマットヒロイン。


 ドアマットとは、ドアの前に敷かれているマットのこと。そこから転じて「いつも踏みつけにされている」「どんなに邪険に扱われても黙ってじっと耐えている」という意味らしい。

そして、そのドアマットなヒロインと言えば、ドアマットのように周囲の人間からよってたかって踏みにじられ虐げられるヒロインのことだ。

 大体、最後にはイケメンな王子様に助けられてハッピーエンド。


 そんなドアマットヒロインについては知っている。だけど、


「エリザ! ごくつぶしのエリザ! どこへ行ったの!? とっとと掃除洗濯全部やるんだよ! エリザ!」

「エリザァ~? 早く出てこないと、たーっぷりお仕置きしちゃうわよ~?」

「はぁ……あの雑巾女、本当に使えないわね」


 エリザ。意地悪な継母と姉二人にいじめられる可哀そうな女。

 そう、ドアマットヒロイン。そんな物語のヒロインに転生してしまったのが『今の私』らしい。


『家族にいじめられていた醜いアヒ族の私、実は白銀の聖女でした』


 これは『前世の私』が読んだことのあるドアマットヒロインもののweb小説。

 この作品は、アヒ族という移民の血をひく母の子であり妾の子としてひたすらにいじめられ続ける長く美しい銀髪と白い肌が特徴のエリザが主人公。継母や異母姉たちからのいじめに健気に耐え続けていると、哀れに思った神様が現れ、ヒーローである黒王子アレクと出会わせてくれる。

 そして、黒王子アレクに救い出されたエリザは自身に眠っていた聖女の力を使い数々の不幸に立ち向かう。そして、最後にはアレクと結ばれハッピーエンドを迎えるというもの。

 とにかく、継母たちや王国の貴族含め色んな人間と主人公や王子に対する酷い描写があって、一時話題になった作品で『前世の私』も気になって読んでいた。


 そう、『前世の私』。


 私には、ありふれたIT企業の会社員だったという前世の記憶がある。正確には取り戻した。

 きっかけは、昨日の事。

 

 継母であるリオネラに命令され、階段の掃除をしている時に、一番上の姉であるミリアと二番目の姉アリアに背中を押され突き落とされた。

 その時に見えた走馬灯。そして、頭を打ったショックで一気に私の脳内に前世の記憶が流れ込んできて思い出すことになった。そして、絶望した。


 『今の私』、エリザの年齢は13歳。

 この13歳というのが特に問題なのだ。13歳から急激に継母たちのいじめが酷くなる描写が始まるのが、原作のスタート地点。どんどん美しくなっていくエリザに嫉妬し、継母たちがいじめ尽くす描写がある、通称、『悪夢の3年間』。何話にも及ぶストレス展開。継母や異母姉たちからのあまりにもエグく陰湿ないじめ。

 そして、3年間耐えに耐えて我慢の限界を迎えたエリザは、自ら命を断とうとする。

 そこに現れたのがエリザを憐れんだ神様で、少しばかりの聖女の力を与え、アレク王子と出会える縁を繋いでくれる。そして、その後正しい行いをしてきたエリザはアレク王子の助力や聖女の力によって、継母達にいわゆる『ざまぁ』する。その後も色々な苦難に見舞われながらもエリザはアレクと乗り越え『ざまぁ』し、その度に二人は絆を紡ぎ、最後には結ばれる。そんな最後にはハッピーエンドめでたしめでたし、というお話だ。


 だけど、


「絶対に、いや」


 私はあの三人から逃げるために入り込んだ隠し部屋で独り言を漏らす。

 そう、絶対にいやなのだ。私は。


 散々踏みつけられて汚されるヒロイン。そう、THEドアマットヒロインの本領発揮と言える『悪夢の3年間』はとにかくただひたすらに不幸を濃縮還元し、いじめの宝箱やーって感じの鬱展開で、前世の私は作者のドSっぷりにドン引いた。


 まず、普通にいやだ。そんな目に遭いたくない。

 そして、何より、この展開が嫌いだ。

 ただただ、女3人がエリザをいじめ抜き、ただただ、女3人のいじめをエリザが耐え抜く。


 女3人もそうだがエリザにも腹が立った。

 正直に言うと、展開は嫌いだけどその後のざまぁ展開が同じような展開でぼっこぼっこ嫌な奴らがやられていくのでちょっとスカッとしたし、何も考えずにぼーっと読めるので会社での諸々のストレス解消に丁度良かった。


 ともかく。私がエリザになったからには、絶対に『悪夢の3年間』展開はいやだ。


「エリザ! どこに行ったの!? 早く出てくるんだよ! エリザ」


 継母リオネラの声がどんどん甲高くなっていき苛立っている表情が目に浮かぶ。

 そうなれば、姉二人にもそのヒステリックな空気が伝染していき、ただただ目の前にいる攻撃しやすい弱者を、つまり、私を見つければ飛びつくはず。


「あ! お母様! エリザが」

「あら、今の汚らわしい銀髪は……アイツに違いないわね。エリザ、どこにいくんだい! 逃げても無駄だよ!」


 私は高鳴る心臓を抑えながら、昨日の深夜に手に入れた『もう少し後に手に入れるはずだった聖女の力』を行使する。

 それは精霊と会話が出来るという能力。まだ弱い聖女の力なので、精霊の力も知れているけれどそれでも私を手伝ってもらう事が出来る。


「エリザ! ……! あーっはっはっは! エリザったらあわてんぼうだねえ! 外に逃げようとして自分の髪をドアに挟んでしまうなんて……ひっつかんで中に入れてあげようねえ」


 私は精霊に感謝する。


 私の髪を持って私の振りをして逃げてくれてありがとう。


 ドアを閉めて髪が挟まった振りをしてくれてありがとう。



 彼女達を『ドアマット』まで誘導してくれてありがとう。



 隠し部屋からこっそり出て彼女達の後を追っていた私はもう一度精霊に祈り、手伝いをお願いする。すると、ドアの下からするりと中へ入ってきた精霊は、ドアノブを掴んだリオネラ達が踏んでいるドアマットに貼りつく。


「さあ、エリザ、お仕置きの時間だよ! 来な!!!!」


 私は、いやだ。

 絶対に踏みつけられるだけのドアマットになんてならない!!!


「さあああ……! あれ? エリザの髪の毛だけ? って、あらぁあああああ!?」


 精霊が勢いよくドアマットを引っ張るとリオネラ達はぐるんとみっともなくひっくり返る。スカートの中まで見えている上にドアマットを被っており、転んでしりもち着いた音に驚いてやってきた使用人たちは気まずそうにする者や笑いをかみ殺している者それぞれ。


 私はドアマットヒロインはいやだ。


「何笑ってるの! 貴方達! って、向こうにいるのは……エリザ! エリザお前なんてことを!!!」

「お義母さま、なんのことですか? 私は今、ここにきたばかりですのに。私が何をしたというのです?」

「何をしたって……だって、あなたの銀髪が、あなた……髪が……!」


 だから、私はこう考えた。


「ああ、鬱陶しかったので、切りました。乱暴者に掴まれたりすると大変ですから」


 『そうだ、ショートカットしよう』


 昨日の夜、神に会った。原作より早く。さっきの隠し部屋で。


『え? エリザ? なんでここを?』『そんなことはいいから神様の力を一部でいいから貸してください』『え、でも……』『私はこっちにきてからずっといじめられていたんです。貰う権利あるでしょ? それとも、もっといじめられないとあげられないって言うんですか?』『いやいやいや! そんなことはないよ!』『じゃあ、おねがいします!』『分かった! 一部だけど解放しよう!』


 髪も切った。掴んで引きずり回され踏まれるより早く。


 原作では、5年後くらいだろうか、一度だけ髪を切る印象的なシーンがあるがそれより早くショートカットにした私。


 私は、絶対にドアマットヒロインにならない。

 これは私の物語、ドアマットヒロインストーリーをショートカットし踏みにじる私の物語。

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方ありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


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