神社
2日後の夜になった。
昼間には雨が降っていたが、夜は降らないらしい。
ケイに連れられて、近くの神社に来た。
たしか、昔の武将を祀っている神社だったような。
本殿の階段に腰を下ろしあたりを見回すが、夜中ということもありあたりに人はいない。
木々の揺れる音、凛とした空気、雨上がりのにおいを感じながらあたりを眺めてみる。
ふと、空気が変わる。
音やにおいが遠くなるような感覚。
気づくと目の前に着物を着た女性の姿があった。
「こんばんは、健人さんですね」
落ち着いた声で話す女性は、直感的にこの世の人間ではないと感じた。
「わたくし境界案内役を務めさせていただくカガリと申します。よろしくお願いいたします」
境界・・・?聞きなれないワードにここがこの世ではないことを感じる。
疑問を感じ取ったのか、カガリさんが説明を続ける。
「ここは境界。この世とあの世の境です。健人さんが死んだわけではありませんのでご安心を。
今、健人さんの肉体はこの世にあります。精神体だけをここ、"境界"にお連れさせていただきました」
それから、カガリさんは"命の水"の集め方について説明をしてくれた。
「これから、健人さんとケイさんをライフスポットの近くにお連れいたします。"命の水"はライフスポットにいる間に少しずつ小瓶に補充されていきます。そうして、小瓶を満タンにすることができれば、ケイさんの命は助かるということになります」
「おおー!なんや簡単そうやな?」
ケイが嬉しそうに言うが、カガリさんが微妙な表情を浮かべながら首を振る。
「そうとは限りません。ライフスポットを狙う参加者はあなたたちだけではないのです。あなたたち以外にも"命の水"を集める方々がいるのです。そして、"命の水"を増やすもう一つの方法として”参加者を倒す”ことで増やすことができます」
そうか、僕ら以外にも"命の水"を集める人がいるのか、と新たに出てきた事実に驚く。
倒すということは、倒されることもあるのだろう。そういった場合、どうなるのだろうか?
ぞっとする想像をしてしまう。
こちらの思考を感じたのか、カガリさんが続ける。
「健人さんについてはご安心を。この世の住人であるところの健人さんについては境界で倒された場合、境界からはじき出され、この世に帰ることができます。ケイさんについてはご自身の"命の水"を幾分か奪われるというカタチになります」
「なんやと!とられてしまうんか!俺死んでしまうやんか」
ケイが叫ぶ。対照的に落ち着いた感じでカガリさんが話す。
「そうですね。ケイさんの"命の水"は現状3割程度ありますのですぐに死ぬというわけではないですが、"死に近づく"という解釈で間違いありません」
淡々とした口調でカガリさんが話す。僕が倒されるとケイの死が近づくということか。責任の重さを認識し、不安な気持ちが心に浮かぶ。
2日前にあったばかりであるが、僕はこの時既にケイに親しみを感じていた。