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8話・ベレニス



「そうでなければ私は今、ここに存在していないだろうね。ベアトリスさまから見れば憎き女の息子でも、義兄上のスペアとして存在は許されてきた。でも、どうやらそのお役目からは解放されそうだ」


「そうでしょうか?」


「バレリー?」


「いえ、何でも無いです」



 ある懸念が頭の隅を横切った。でも、それには気が付かない振りをした。今ここで口にしても始まらない。



「リヒモンドさまはこれからベレニスの元へ?」


「そのつもりだったが、今日はきみに譲るとするよ。彼女もきみに会いたがっていることだろう」



 リヒモンドは、手にした白百合の花の束を手渡してきた。彼はベニレスを哀れに思っていた。彼女のことを忍び、時折彼女の墓を訪れていることは風の便りで知っていた。



「バレリーは、ベレニスと会うのはしばらくぶりだろう?」


「ええ」


「ゆっくり語り合うといいよ。きみらの邪魔はしないから。じゃあね」



 そう言って彼は踵を返した。彼は察したのだろう。私が中庭の奥へ向かおうとしたことから、ベレニスに会おうとしていたことを。


 中庭の奥には大公家の墓場がある。そこには私の親友ベレニスが静かに眠っていた。彼女はウォルフリックさまの妹。病弱で知られる彼女は、領地にて静養を余儀なくされていた。

 社交界には一切顔を出すことは無く、10年前の兄ウォルフリックさまの失踪と、母親の死と不幸が続き、心痛からか儚く亡くなったことは皆に周知されていた。


 リヒモンドが託してくれた白百合の花を手に、彼女の墓の前に立つ。彼女のお墓は綺麗だった。定期的に手入れがされているように感じられた。恐らくリヒモンドの意を受けた者が掃除をしてくれているのだろう。



「久しぶりね、ベレニス。私、戻って来たわ。リヒモンドさまから聞いたかも知れないけど、あなたのお兄さまも帰ってきたのよ。あなたが一番、会いたがっていたのに。皮肉なものね」



 身を屈めて近況を報告すると、お墓の下で眠るベレニスが微笑んだような気がした。ベレニスは、兄のウォルフリックのことをいつも気に掛けていた。



「どうしてかしらね? 私は素直に喜べないの。もしかしたらって疑ってしまうの。だってあれから10年も経って──誰?」



 ベレニスに話しかけていると、背後で小枝を踏むような音がした。振り返ると赤髪が垣根の向こうに見えた。一瞬、あの女性かと思い立ち上がると、そこには自分とそう年齢の変わらなそうな見知らぬ娘がいた。初めて見る顔だ。私の反応を伺うような茶色の瞳に問いかけた。



「あなたは? ここは大公家のお墓です。関係の無い方にはご遠慮頂きたいのですが」



 急に現れた娘に対し、私は不審なものを感じた。この墓場は中庭の奥にある。人目につかないような場所で、滅多に他人が来ることもないので気にしてなかった。こうして不躾に中に入ってくる者がいるとは思ってもいなかったし、ベレニスとの語らいの時間を邪魔されたような気がした。



「あたしはディジーよ。あんたはバレリーさんよね?」


「はい。そうですが何か?」



 不機嫌そうに彼女は名乗った。その名前には心当たりがある。ウォルフリックが大公家に連れて来た娘=恋人と称される娘だと気が付いた。





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