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17話・わたしの居場所


「だってわたしは平民で、あなたは大公弟さまなのよ。身分だって違う」


「私にはね、政略結婚相手となる者がいない。この見た目だからね。皆に敬遠される」



 ヘッセン家の特徴が強く表れているおかげで、彼はネルケ夫人とヘッセン家当主との間に生まれた子では無いかと邪推されていた。今は亡き前大公が「この子はわしとネルケとの間に生まれた子だ」と、表明したことから、表向き批判はされないが、出自を疑われているのは確かだ。

 それでも彼の優秀さは知られているし、兄の大公や祖母のベアトリスには頼りにされているので、本人が望めば良縁に恵まれないとも限らないのに。



「きみは言ったよね? 女の子に戻れたら髪の毛を伸ばしてリボンで結んで、綺麗なドレスを着てダンスをしたいって。あの時、私もきみに言えなかった言葉がある」


「なあに?」


「着飾ったきみを一番、最初にエスコートしたいって言いたかったが、恥ずかしくて飲み込んでしまった。きみとはそれ以来、会えなくなってしまってずっと後悔していた」


「リヒモンドさま」


「だからもう後悔はしたくない。私にとってきみは可愛い妹のような存在だったけど、再会してそれ以上の気持ちを抱いていることに気が付いた。どうかその臆病な私の気持ちをくみ取ってはくれまいか」



 リヒモンドに両手を取られて乞われてしまったら、断る自信がなくなってしまった。



「狡い。そんな言い方されたら絶対断れないよ」



 目線を逸らして俯くと、抱きしめられた。



「嬉しいよ。気持ちが通じて」


「でも、遠距離になるよ。良いの?」


「不安があるかい? それなら私がそちらに何度も通うとしよう」



 きみのお父さんに交際の許可をもらわないとならないからねと、リヒモンドに言われて恥ずかしくなった。でも、父さんに許可をもらう? 母さんには? と、思うと、リヒモンドが言った。



「すでにきみのお母さんには許可してもらっている。娘を宜しくだってさ」



 母さんには実は、リヒモンドの話題を何度かしたことがある。その時は憧れの人だと言っていたけど、もしかしたら母さんにはわたしの気持ちはバレバレだったのかも知れない。

 その後、隣国に帰ったわたし達の後を追うようにリヒモンドがやってきて、父さんに「娘さんを下さい」と、言ったことで一触即発の危機に陥りかけたが、母さんの取りなしもあって、渋々交際は認めてもらえた。








「どうした? ディジー。緊張している?」


「そりゃあ、緊張するよ。いくら久しぶりと言っても……」



 今日はレバーデン大公国の宮殿に来ている。大公や前大公夫人に、リヒモンドとの結婚の報告に来たのだ。

 宮殿の玄関前で馬車から降り、リヒモンドのエスコートで赤い絨毯の上を踏みしめる。思えばここまで来るのに長く遠い道程だった様な気もする。

 見慣れた階段を上っているだけなのに、足が重く感じられる。これがいずれ大公弟の妻となる自分への責任の重さの様な感じがして一歩、一歩ゆっくりと上っていくと、最上階で父と祖母が待っていた。



「ディジー」


「ディジー、良く来たな」


「お祖母さま。お父さま」



 二人の顔を見たら思わず駆け寄っていた。



「お帰りなさい。ディジー」


「お帰り。ディジー。あなたの帰りを待っていたのよ」



 さあ、中に入りましょう。と、数年ぶりの再会だというのに祖母の態度も、父の態度も変わりなかった。ここにわたしの居場所はあったらしい。それを必要としなかったのは自分の方なのかも知れない。

隣に立ち、エスコートしてくれる愛しい人の導きでわたしは再び、宮殿へと足を進ませた。





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