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16話・問題しかない

 それから数日後。夫人は大公を刺した件で裁かれ身分剥奪、財産没収の上、修道院送りとなった。裁判では終始夫人は大人しくしていて、判決も素直に受け入れたそうだ。クランチオ侯爵も体調を取り戻してから、裁判にかけられた。反大公派を擁立し簒奪を企んだとされて、侯爵当主の座を追われて、領地の片隅の古い屋敷に追いやられたと聞く。


 全てが終わったことで、わたしは母さんと隣国へ帰ることにした。父らはわたしを養女にして大公家に戻すことも考えていたが、それは断った。


 ベレニスは死んだのだ。ここにわたしは必要ない。わたしはディジーとして、これからも花屋の看板娘として生きて行く。それを大公に告げると残念そうな顔をしていたが、



「何かあったら連絡してきなさい。きみはどこにいようと私の娘であることには変わりないのだから」



 と、言ってもらえた。それだけで十分だ。心置きなくここを去れると思っていたのに、帰国の前日、バレリーに誘われた。裏山に行こうと。


 彼女の意図が察せられて、断ろうとしたのに彼女は強引だった。引きずられるようにして連れ出された場所にはリヒモンドがいた。


 この間、告白めいたことを言って逃げ出した自分だ。気まずくて仕方ない。そんな気持ちを知るはずも無いバレリーは、無邪気にあの日のスープをリヒモンドに強請る。いつの間にか親しくなっていた、彼らの態度に嫉妬めいた気持ちもわき上がるが、これがどうせ最後だ。


 もう二度とここに来る事は無い。リヒモンドやバレリーに会うことも無い。そう思えばこの時間を乗り切れそうな気がした。

 たわいない会話が続き、バレリーに頼れる兄がいていいなと思わず本音を吐露してしまったら、リヒモンドがバレリーにわたしと二人きりにして欲しいと言い出した。


 いよいよ、彼から引導を渡されるのだ。心臓がドキドキしてきて落ち着かない。でも、これで彼に振られたのなら、それで気持ちに折り合いがつきそうな気もする。



「ディジー。私と付き合ってもらえないかな?」


「え? どこに?」



 思いもしなかった言葉に耳を疑った。まさかね? と、思いながら彼を見ると、顔を赤らめている。



「私と結婚を前提に付き合って欲しい」


「いいの? わたしはあなたとは姪の関係よ」


「表向きの関係はそうだけど、本当は違うだろう。私はベアトリスさまの甥御でヘッセン家の息子。大公の娘であるきみとは従兄妹同士になる。何も問題ない」



 そうは言っても、問題しか無いのでは? と、批判めいた視線を送ると彼は可笑しそうに答えた。

 彼はヘッセン家の息子だというのは、祖母や父しか知らない秘密だ。もしかしたらヘッセン家当主にも知られているかも知れないが。

 ネルケ夫人は、前大公との間に産んだ子が死産になったことで、乳母の奸計に乗って、その頃ヘッセン家で産まれたばかりの赤子と入れ替えた。それが彼だ。



「でも……」


「私が嫌い?」


「そんなことない。でも、認められるわけが無い」


「どうして? 今のきみはベレニスではないよ。ベレニスは死んだ。ここにいるのはディジーだ」



 分かっているくせに、リヒモンドは不思議そうに言う。


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