14話・大公家への意趣返し
「私の顔は大公さまによく似ているでしょう? そして髪や瞳の色はネルケさまに似ている。これが偶然だとでも?」
「あれの産んだ子がお前? そんなはずはない。あれは──」
「私は正真正銘、ネルケ夫人が産んだ子ですよ」
そう言えば、侯爵は目を剥いた。この場で何を言い出すのかと言いたげだった。この場でその話をすれば監視の騎士から上に話が伝わり、大公家で秘してきたことが明かされることになる。
「信じられませんか? 私はこの世に誕生した時から、あなた方の期待に応える為、公子として生きてきました」
「何? おまえが公子? まさか10年前にいなくなった公子とはお前のことなのか? でも公子は黒髪をしていた」
「さすがに成長すれば、男児と偽るのもきつくなりますからね。髪なんて染めれば、どうにでもなるものですよ」
「……。性別を偽ってきていただと? 大公妃に騙されていたのか。あの女……!」
クランチオ侯爵は、悔しがる素振りをした。わたしの意図に気が付いたのだろう。これは大公家への意趣返しだ。クランチオ侯爵に暴露する素振りで、大公家の秘密を明かしていくのだ。
「私はてっきりあなたさまが、次期大公さまにリヒモンドさまを推してきたのは、私の性別を偽って公子になっていたことを知っていたからだと思っていました」
「わしは知らなかった。どうしてそのようなことに?」
「大公さまがいけないのですよ。ネルケさまよりも先に妾に子供を産ませていて『ウォルフリック』と、名前まで与えられた。二番手の私は大公家の為、あなた方の期待を裏切らない為に、彼に成りすますしかなかった」
クランチオ侯爵は、さすがにここまで明かさなくとも。と、思ったようだ。
「あなたは10年ぶりに会ったウォルフリックに、幼い頃の面影が感じられなくて偽者ではないかと疑われた。当然です。10年前のウォルフリックは私が演じていたのですからね」
「……」
「でも、ご安心ください。帰ってきた公子さまは本物です。大公さまの血を引いておられます。これであなたさまが危惧されていたことは問題なくなりましたよね? クランチオ侯爵」
「ディジー」
「大公家の血筋はこれで正される。私やリヒモンドさまの出番は必要ありません」
「何を?」
「まさか気が付いておられなかったのですか? 侯爵。リヒモンドさまは──」
この辺で芝居を止めようとしたわたしに、侯爵は思いきり怪訝な顔をする。ああ、この人はまだ知らなかったのか?
わたしは小声で囁いた。
「あの方はヘッセン家の者。ネルケ夫人が産んだ赤子は死産で入れ替えたのですよ」
それだけ言えば、侯爵もさすがに気が付いたようだ。義娘の犯した罪を知り、まっ青になった。自分の義娘が産んだと思い込んできたリヒモンドが、実は他人だと知り衝撃が大きかったのだろう。
わたしが辞した後、倒れ込んだと聞かされた。その事に皆の目が行き、わたしと侯爵が話していたことは広がることはなかった。




