13話・父にはわたしはどう見えているのだろう?
ネルケ夫人が大公を刺した。その一報が宮殿を駆け回ったのは、わたしが宮殿を去る日を決めてから数日後の事だった。
夫人達は反大公派として、ウォルフリックのことを夜会で糾弾する予定だったらしいが、逆に父にやり込められたらしい。わたしは平民という立場もあり夜会には参加出来なかったが、後から詳細は祖母から聞かされていた。
クランチオ侯爵は、現在貴族牢で捕らわれているとも聞いた。そのせいか夫人は養父を助けようと動いているらしいが、全て裏目に出たようだ。
わたしのところにも侯爵を助けて欲しいとやってきたが、何も手助け出来ないと拒むと、失望したようで罵られた。彼女は必死だった。
肉親のように感じている人が囚われの身になった。なんとかして助けたい。その想いは分からないでも無い。でも、夫人には立場がある。そのことがあまりよく分かっていなかったらしい。
そのせいで父は刺された。
でもこれは父が女性にだらしないから招いた不幸だ。自業自得とも思える。それでも父の容態が気になって運び込まれた部屋へと足を向けると、祖母やウォルフリック、バレリーが側にいた。
「これで証拠は出揃った。反大公派に鉄槌を下すことが出来る」
四人で何やら深刻な話をしていたようだ。反大公派という言葉が聞こえてきて、足が竦んだ。わたしはその反大公派へと夫人を通して誘われていた。頷きはしたものの、ハッキリとした参加意思は表明してはいないが、個人的に大公家に対して思うところはあった。
それがリヒモンドに会って言われた言葉で、気持ちが揺らいでいる。
──きみは自由だ。
彼には分かっていたのかも知れない。どういう意図でわたしが大公家に帰ってきたのかを。わたしは父達に復讐をしたかったのだ。大公家に振り回されてきた自分を死んだことにして、何もなかった振りをする大公家が許せなかった。
「ディジーか。こちらにおいで」
一度は隅に追いやった感情が、頭をもたげてくるのを感じる。ベッドの上に半身起こした父が、自分の姿に気が付いたようで呼ばれた。
「心配かけて済まなかったね。もう大丈夫だよ」
「良かった……」
父にはわたしはどう見えているのだろう? 父親思いの娘? 滑稽だ。父は赤毛の母に刺され、その娘に気遣われている。何とも可笑しな光景じゃ無いか。
父に頭を撫でられていると、複雑な思いが交差した。年頃の娘にするような行為じゃない。父はわたしを幼子と勘違いしている? それでも父に頭を撫でられるのは嫌じゃ無かった。幼い頃のわたしと父の関係は薄かった。接触がほぼなかった。父は夜ごと女性の後を追いかけ回していたからだ。
ネルケ夫人に刺されなくとも、誰かには刺されていたに違いない。ざまあみろ。そう言う思いで笑いを噛みしめていたら、涙ぐむバレリーと目があった。
ふと思い立って、わたしはクランチオ侯爵に会いに行くことにした。
「何度か過去には式典でお会いすることはありましたが、こうして直接お会いするのは初めてですね。クランチオ侯爵」
「おまえは……?」
貴族牢には監視の騎士が立っていた。初対面を装うと檻の中の侯爵はそれに合わせてくれた。
侯爵はソファーに腰を下ろしていた。老人が入れられている貴族牢は、天井から鉄格子は降りているが、中は広く内装は豪奢な作りで、客人用の部屋と大して変わりはなかった。その事に少しだけ安堵した。
「私はディジーです。どうぞお見知りおきを」
「ああ。お前がディジーか。噂には聞いておる。平民の娘がわしに一体何の用だ?」
クランチオ侯爵も、監視の目を気にしてだろう。お前など知らぬといった様子で話してくる。
「お前は平民ではないのか? ウォルフリック公子が隣国から連れ帰ったと聞いているが」
「本気でおっしゃっておりますの?」
「なに?」
「よくご覧下さいな。私の顔立ちが誰によく似ているか。そして髪の色や、瞳の色は誰のものかお分かりかと思っていました」
ゆっくりと格子まで近づき、クランチオ侯爵に自分の顔を見せ付ける。




