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7話・前大公の愛人の息子



「やあ、バレリー嬢。久しぶりだね」


「リヒモンドさま」


「随分、大人びてきたね」



 東屋に一人ウォルフリックを残し、このまま大叔母らの元へ戻るのも癪に思われて、大事な人が眠る場所へと足を向けた時だった。ヘッセン家とは敵対関係にある相手と出くわした。彼はリヒモンド。前大公が亡くなるまで気に掛けていた愛人の息子だ。御年22歳。

 現大公とは腹違いの年の離れた兄弟となる。彼は白百合の花の束を手にしていた。



「今日はウォルフリックとの顔合わせでは無かったかい?」


「ええ。今、会ってきました」


「きみから見た彼はどんな感じ?」


「気になりますの?」


「そりゃあ、気になるさ。義兄上が倒れた今、次の大公の座は弟である私かと思われていたなかで、義兄上の息子ウォルフリックが帰ってきた。タイミングが良すぎないかい? 我が妹よ」


「冗談が過ぎますよ。リヒモンドさま」



 リヒモンドは、狡猾な笑みを浮かべた。彼の母親ネルケと、私の父親ローダントには浅からぬ因縁があった。二人は恋人同士だった。父の紹介で宮殿に上がったネルケは、前大公さまのお手つきとなり寵妃となった。


 すぐに妊娠し生まれた子供が彼なのだが、彼は母親や前大公には似ていなかった。深緑色の髪や黄緑色の瞳はヘッセン家特有のもので、生まれた当初、恋人だった父ローダントの子では無いかと疑われたものだ。しかし、前大公がそれを否定し、自分にもヘッセン家出身の母親がいる。その血が現れただけだと一蹴した。


 こうして彼と一緒にいるだけで、見ず知らずの人から見れば「兄妹」だと思われてもおかしくはないほどに、彼は私達家族によく似ていた。そのせいかこうやってからかってくる。



「複雑だな。彼は10年前の記憶がないんだって?」


「誰からそれを?」


「ベアトリスさまから聞いた」



 リヒモンドは私の両親や、兄らにはあまり良く思われていなかった。でも、私は他の家族達のように彼の事を嫌ってはいない。彼は行方不明になる前のウォルフリックとは大変仲が良く、可愛がっていた。私にも優しかった。

 彼には母親の事で周囲に嫌悪されていたこともあり、表向き距離を取らされてはいたが、私達はこっそり宮殿の裏山で会っていた。彼の息抜きの場所がここで、そこへ私達が入り込んでからの仲になる。



「大叔母さまが?」


「母親のことがあるから色々と邪推はされるけど、皆が思うほど私とベアトリスさまの仲は悪くはないよ」



 今までずっと前大公の正妻であるベアトリスさまは、彼ら愛人親子を嫌っていると思っていただけにその真実には驚いた。



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