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9話・彼には知られたくなかった


 気が付いてよ! と、いう思いが、彼女に対して批判の声をあげていた。



「あら。泣き言? お嬢さまは愚痴れる相手すらいないの? お可哀想に」


「ディジー」



 わたしを見る目は嫌悪感に溢れていた。自分をつけてきたのか? と、問いかけてきた彼女にそうだと言えば、ますます目がつり上がっていく。



「ここには入らないでと、言ったはずだけど」



 彼女にとって、ここは聖地であるかのような言い草で関係者以外は立ち入るなとその目が語っていた。

 大公や祖母に許可をもらっていると言い返せば、信じられないといった顔をしていた。



「そのお墓の人も迷惑していると思うよ。あんたみたいな人がグチグチ、メソメソしていたら。鬱陶しく感じているかもね」


「あなたに何が分かると言うの?」



 バレリーに睨み付けられて立ちすくむと、横から声が割り込んできた。



「やあ、バレリー。今日もきてくれたのかい?」


「リヒモンドさま」


「おや? きみは誰かな?」



 その声は忘れたくとも忘れられない人だった。彼と目が合うと一瞬、目を見張った様子があったがすぐに逸らされる。彼は聡明な人だ。気付かれただろうか?

 思案する前でバレリーが、リヒモンドに紹介していた。紹介を受けた彼は朗らかに笑いかけてきた。



「ああ。話には聞いているよ。きみがディジー嬢か。母とも仲良くしているそうだね?」



 母親は我が儘な人だから、相手をするのは大変だろうと言いながらも、こちらを観察しているような気がした。



「あ、はい。ネルケさまには良くしてもらっています」


「母は我が儘だから付き合うのは大変だろう?」


「いえ。そんなことは……」



 彼の何もかも見透かしたような目線が怖い。ネルケ夫人との関係にも気付かれているような気がする。



「母に無理して付き合うことはないよ。あの人に媚びても、きみの得になるとは思えない。何か目的でもあるのかな?」



 その声音には警戒の色があった。彼もバレリーと同じか。彼にも気付いてもらえていないことがショックだった。10年という歳月は、こんなにも人との係わりを変えてしまうのか──。



「別にあたしはそんなんじゃ……。ひったくりにあったネルケさまを助けたことで親しくなっただけです。そのように思われるなんて心外です」


「気分を害したのなら謝るよ。私は他人を鵜呑みに信じられる立場にないのでね」



 彼からの言葉は冷たいものだった。ネルケ夫人から彼の素性を告白されていたことで、バレリーを庇うように立ちはだかる彼を見ていて、当然のことかとは思う。彼らは実の兄妹なのだから。それが悲しくも羨ましく思えた。

 この場にいては過去の感傷のような思いに引きずられそうだ。言いたくても言えない状況。ネルケ夫人の思いが少しだけ分かってきたような気がした。

 感情に引きずられた惨めな自分を曝け出したくない。そう思って立ち去ろうとした時だった。



「きみは母上に似ている」


「ネルケさまにあたしが? 光栄です。でも、ネルケさまはあたしのような者に似ていると言われたりしたら、気分を害するのではないですか?」



 ネルケ夫人とは約束していた。自分達の外見が似ていることは明らかだ。そこから実の母娘と素性が明らかになると動きにくくなるので、お互い他人だと言い張ろうと。



「ここにもあたしがいると、気分を害する方がおられるようなので失礼致します」



 彼の目は見ていられなかった。バレリーに嫌味をぶつけて立ち去ることにした。複雑な思いが胸にこみ上げてきて喉元まで押し上げてくるのが感じられた。それを彼には知られたくなかった。



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