8話・似たもの母娘
「どうしてあたしのことを?」
「あなたは私が産んだ娘だもの。気にはなるわ」
彼女のその言葉には嘘がないように感じた。でも、気になることはあった。
「リヒモンドさまのことは捨て置いていたくせに?」
「好きであの子を手放したわけではないわ。でも、あの子の為には、その方が良かったのかも知れない」
「どうして?」
「あの子は私の子では無いの。実は──」
沈痛な面持ちで告白した夫人の言葉は、わたしの心に大きな衝動を与えた。
「あなたは何てことを……!」
「そうよ。酷い女なのよ。私は」
そんな母を持ち、呆れたか? と、夫人は聞いてくる。夫人の告白に驚きはしたが、その一方で罪悪感がどんどん膨らんでいくのを感じる。わたしが実母のことを言える立場ではない。わたしだって罪を犯した──。
わたし達は似たもの母娘なのかも知れない。そして実母は悲しいほど実直で、不器用な女性だ。その女性は、わたしに利用されることを望んでいた。
「あなたは大公家に思うところは無いの? あなたは本来、女の子として幸せな暮らしを送ることが出来たはずなのよ」
「わたしは……」
「あなたはアリアンヌに振り回されてきただけじゃない。公子として育てられ、用済みとなったら消されていたかも知れないのよ」
その言葉にある記憶が蘇ってきて、ゾッとした。あり得なくもない未来だったからだ。大公妃アリアンヌは用意周到だった。あの日、階段から落ちる前にあの人は、わたしに向かって憎々しげに言った。
──どうしてあなたが代わりに落ちなかったの? 役立たずね。
その言葉には悪意しかなかった。今まで母と慕っていた人の期待に応えようと、涙を飲んで頑張って来た。でも、何をしてもあの人の心には響かなかったのだ。
「どうしてって思わない? アリアンヌがあなたにしたことを、止める事の出来たはずの大公や、ベアトリスさまはどうして見逃してきたの?」
何も言えなかった。父や祖母は表向き好意的ではある。何をしても許されそうな雰囲気ではある。でも、それは家族愛とは違う。養父母らと暮らして来てその違いがよく分かった。父や祖母は自分に対して負い目があるのだ。その為、強気に出られない感じがする。
「大公家に仕返ししてやらない?」
「……!」
今までのことが頭のことを過ぎり、夫人の言葉に頷いていた。
それからは大公家が推し進めるウォルフリックと、バレリーの縁談を邪魔するようになった。バレリーが誤解するような言動で二人を仲違いさせようとした。でも、ところどころで女官達が動きを阻んで邪魔してくるので、上手く行くときと行かないときもあったが、もともとウォルフリックとは親し過ぎるという疑惑もあったので、彼とは恋仲なのだと噂が立ち始めた。
ある日、昼餐の間にやって来るバレリーの時間を見計らってウォルフリックに「自分を捨てないで」と、追いすがれば、それを見たバレリーはその場から立ち去った。後を追うと彼女の向かった先は墓場で、「ベレニスの墓」だった。その姿には胸が痛んだが、彼女がせつせつと訴えているのを聞いて耐えられなくなった。
──そこに誰も眠ってはいない。わたしはここにいるのに!




