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7話・産みの母との再会


 わたしの死を本気で彼女は悲しんでくれていた。その気持ちが嬉しかった。彼女だけは自分の味方でいてくれた。前のめりになったせいで、兄元の小枝を踏みしめてしまった。その音でバレリーに、自分がこの場にいることがバレてしまった。



「あなたは? ここは大公家のお墓です。関係の無い方にはご遠慮頂きたいのですが?」



 久しぶりに顔を合わせた彼女は、見知らぬ人のようだった。彼女はわたしに気が付かないようだ。もう10年も経っているから当然か。諦めのような気持ちが先に立った。



「あたしはディジーよ。あんたはバレリーさんよね?」


「はい。そうですが何か?」



 勝手に期待した自分が悪い。バレリーは何も知らない。でも、悔しかった。彼女は過去に囚われている。今のわたしはここにいるのに。そう思ったら厳しいことを口にしていた。



「あんたさ、後から現れてリックにちょっかいを出すのは止めてくれない?」


「リック?」


「ウォルフリックのことよ。あたしとあいつは将来を誓った仲なの。あんたみたいな良い所のお嬢さんなら別にリックじゃなくとも、他に良い男が現れるでしょう? わたしからあいつを取らないで」



 これは隣国でも、ウォルフリックの見た目の良さに言い寄る女達から、兄を引き離すためによくついていた嘘だが、それが言い慣れていたせいか、彼女の前でも口をついて出た。それを聞いたバレリーが気を悪くすることを知っていながらも、取り消すことは出来なかった。


 もうバレリーの中では、ディジーに対して良い感情はもてないだろう。それでも構わなかった。だって彼女の知るベレニスはもう存在しない。ここにいるのはただのディジーだ。

 バレリーは淡々と、わたしを言い含めるようにウォルフリックとの婚姻は政略的なもので、個人的感情でどうにかなるものでもないと説明してきた。あの頃のバレリーから彼女もだいぶ成長したようだ。


 守られているだけの、お嬢さまではなくなったのだなと感じた。祖母の子供の頃に、容姿がそっくりだと言われていた彼女は、中身も似てきたような気がする。



「あんたみたいな女、あたし嫌い。鼻につく」


「同感です」



 八つ当たり気味に言えば、バレリーも冷静に返してきた。わたしの知る彼女の姿はそこになかった。それが少しだけ残念に思われた。






 後から考えると、わたしの取った行動は全て最悪でしかなかった。素直でなかったのは確かだ。そしてわたしは気晴らしに公都に一人で買い物に出かけた。ある店に入ろうとした時に、自分と入れ違いに店から出て来た夫人がいた。その夫人は自分に目を止め、立ち尽くした。



「……生きていたのね?」



 夫人は涙目になっていた。買い物したばかりのバッグが手から落ちる。そこへ横から現れた若い娘が、そのバッグを拾い上げて立ち去ろうとした。



「お待ちなさい。それはあたしの──」



 夫人が娘に声を上げたと同時に、駆け出していた。そして攻防の末に、そのバッグをようやく取り戻すと、持ち主に返すことができた。



「お礼がしたいわ。一緒に来て」



 夫人に誘われて、公都の外れに構える屋敷へと連れて行かれた。



「今までどこでどうしていたの?」



 産みの母だからだろうか? 夫人は一目で、わたしがベレニスだと分かったようだ。その声音には心配したものが感じられた。



「隣国で暮らしていました」


「そう。良かったわ。あなたが死んだと公表されても信じがたくて……」



 夫人自ら入れてくれたお茶は、優しい味がした。館の家具は宮殿にあるものとは違い、華やかさには欠けるが、素朴で居心地の良い空間に思えた。こちらの方が自分には好感が持てた。



「ここにはいつから住んでいるのですか?」


「最近買ったの。公子さまが戻って来たと聞いて。公子さまに会って、あなたのことを何か聞けないかと思ってね。でも、公子さまは忙しいみたいで」



 公子さまにはなかなか会わせてもらえなくて……と、ネルケ夫人は言った。真相を知らない祖母達は、ネルケ夫人を警戒していたのだろう。その為、なかなか公子には会わせてもらえなかったようだ。

 公女ベレニスは兄の公子が失踪したことで、母が気に病んでなくなり、それを知り儚く亡くなったことにされている。



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