6話・わたしの帰りを待ち望んでくれていた人
それからは何気ない日常の中で、わたしは彼らと家族になっていった。そしてウォルフリックの教育が完了し、いよいよ大公家に行く日が迫ってきた。
それにわたしは着いていきたいと、我が儘を言った。わたしは記憶喪失を演じてきていたが、事の真相を知るネルケ夫人の動きが気になっていたのだ。
ウォルフリックは、あの日ネルケ夫人から、アリアンヌ大公妃の背を押したのは夫人だと証言するようにと言われていたようだ。でも、彼は大公や祖母の前で、見知らぬ女性が現れて大公妃と揉めて、大公妃は階段から落ちたのだと証言していた。彼は階段から落ちたときに夫人に庇われたのもあり、夫人が犯人だと言いたくなったのだと思った。
久しぶりに帰って来た宮殿は何も変わっていなくて懐かしかった。変わってしまったのは自分の立場。公女だったはずの自分は死んだことにされている。いまの自分はウォルフリックの養父母達の娘で平民だ。
宮殿では大公らの計らいで客人扱いされていたが、なかにはそれを快く思わない者がいたようだ。公子であるウォルフリックとの距離が近すぎると噂が立ち、批難の目を向けられた。
大公である父や祖母は表だって庇うことは出来ないけれど、客人として持てなすように使用人達に言い含め、不躾な態度を取っていた使用人は遠ざけられた。それも良くなかったのかも知れない。憶測を生んで、ウォルフリックについてきたディジーは、ウォルフリックの恋人なのではないかとまで、言われるようになってしまった。
父や祖母はどうにかしようとしてくれていたが、本当のことを明かすわけにはいかないし、自分は気にしていないからと放置することにした。
そして迎えたウォルフリックと、バレリーの顔合わせの日。さすがにその日は邪魔するわけにはいかないので、前から気になっていた自分の墓を見に行く事にした。
ベレニスの墓は綺麗に清掃されていて、そこに飾られている花はみずみずしかった。きっと父や祖母が使用人に命じて用意された物なのだろう。自分の死を知り中には涙した人がいてくれたなら、自分が亡くなったことにされたのは無駄ではなかった気がする。しんみりとした気持ちになった。
すると誰かが近づいてくるのが見えた。思わず大木の影に隠れて様子を窺うと、そこに現れたのは、兄のウォルフリックと顔合わせをしていたはずの彼女だった。
──バレリーだ!
一目で分かった。バレリーは綺麗になっていた。でも、どこか鋭利な雰囲気を滲ませていて、子供の頃のようなあどけない無垢さが消えてしまったように感じた。
思わず声をかけようとして留まった。自分は死んだことにされているのだ。その自分が彼女の前に今更、どんな顔をして会えば良いというのだろう。
彼女はわたしの墓の前で、身を屈めて話しかけていた。
「久しぶりね。ベレニス。私、戻って来たわ。リヒモンドさまから聞いたかも知れないけど、あなたのお兄さまも帰ってきたのよ」
それは知っている。だってその兄とは今まで一緒に暮らしてきた。
「どうしてかしらね? 私は素直に喜べないの」
彼女は複雑な心境を切々と明かしていた。バレリーは10年前のウォルを、ウォルフリックとして生きていたわたしの帰りを待ち望んでくれていたのだ。それがよく分かった。




