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3話・わたしがあかげでも、なかよくしてくれる?



「そんなことが……できるの?」


「大丈夫。あなたには実は兄がいるの。あなたのお父さまは近々、彼を引き取る予定よ。そしたらあなたは女の子に戻れる」


「わたしにおにいさん……?」


「ええ。その子が戻って来たなら、あなたは公女に戻ることになるわ。女の子として暮らしていくことになる」



 自分には兄がいる? 思いがけない言葉に自分はひょっとして、その兄の影武者として育てられてきたのではと暗い気持ちになった。その顔色を読んだように祖母は否定した。



「あなたは彼の身代わりではないわ。あなたに兄がいることを知ったのは、だいぶ後になってからなのよ。あなたのお父さまも驚いていたくらいなのだから」


 どういう経緯なのか知らないが、父は母以外の女性との間に子供をもうけていたらしい。でも、その子供を引き取ることで、わたしは本来の「ベレニス」に戻れるのだと祖母は言った。



「でも、おかあさまはみとめるでしょうか……?」


「そちらは大丈夫。話もついているわ」



 祖母が安心して。と、言ってくる。リヒモンドを見れば彼も頷いていた。どうやら彼にも、わたしの事情は知られていたようだ。

 その後、自分達が住んでいる東館までリヒモンドが送ってくれた。



「きみは女の子にもどれたら、なにがしたい?」


「そうね。まずはかみのけをのばして、リボンでむすんで、きれいなドレスをきてダンスをしたい」


「その夢はちかいうちにかなうよ。きみが髪の毛をのばしたらかわいいだろうね」


「それはどうかな? わたし、じつはあかげなの」



 リヒモンドが息を飲んだ気がした。彼の母親は赤毛の美人で知られている。彼が10歳の時にその母親は彼を置いたまま、宮殿を去った。その為、祖母が彼を引き取って育てているのだと、母が言っていた。



「あかげは、げひんでみっともないって。おかあさまがきらって、かみのけをいつもくろくそめているの」


「赤毛は下品ではないよ。きれいだとおもうよ」



 リヒモンドは優しい人だ。彼も赤毛に関しては思うところがあるだろうに、年下の自分のことを思いやって悪く言わないでくれている。それが有り難かった。



「わたしがあかげでも、なかよくしてくれる?」


「もちろんだよ。きみの髪が黒だろうが、赤だろうが、金だろうが、茶色だろうが関係ないよ。きみはきみだもの」



 その言葉でわたしは、今まで嫌っていた自分の赤毛が好きになれそうな気がした。それからはリヒモンドと隠れて会うようになった。母の目を盗んで、こっそり裏庭で落ち合う。そこにいつしかバレリーも加わり、数ヶ月が経った頃、あの事件が起きた。




 あれは兄のウォルフリックと顔合わせの日だった。朝から母は支度や準備に忙しそうにしていて、ばあやは「これでようやくお嬢さまが本来の姿に……」と、嬉しそうにわたしの髪を梳き、髪を綺麗にまとめるとリボンで結んでくれた。


 姿見に映ったわたしは、バレリーのように可愛らしいドレスを着ていて、以前からその姿だったかのように馴染んで見えた。髪は赤毛のままにしていた。


 父や祖母は可愛いと褒めてくれた。赤毛を嫌う母の反応が気になる所だったが、父達の手前なのか特に何も言うことはなく「悪くはないわ」で、終わった。

 母にとっては、公子の役目を終えたわたしよりも、自分の実子となる予定の本物のウォルフリックが気になって仕方ないようだった。朝からソワソワしていて、彼らが到着すると満面の笑みで出迎えていた。


 ウォルフリックは、父によく似ていた。性格は快活なようだ。物怖じすることなく、ハキハキと父や祖母を相手にする様子に好感がもてた。大人達の会話は子供の自分達には難しくて分からない部分もあり、すぐに退屈した。そこでウォルフリックと目配せ合い、こっそりと部屋を抜け出すと、階段でじゃんけん遊びをした。ウォルフリックが教えてくれたのだ。下町の子供達の間で流行っている、じゃんけんという三種類の指の出し方で勝敗を決める遊びがあり、それで勝った者は出した指の数だけ階段を上るという遊びをしていた。教えてもらった遊びに夢中になって遊んでいた時だった。一人の女性が近づいてきた。


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