2話・自分なりの答え
「リヒモンドさま。如何なされました?」
ローランドと、執務の合間の休息を取っていたリヒモンドは我に返った。
「ああ。いえ、ちょっと子供の頃を思い出していただけですよ」
「子供の頃ですか?」
この場には女官も下げていたので、執務室にはローダントと二人しかいない。
「あなたに私の本当の父親なのかと、聞きたくて仕方なかった頃の話です」
「それは……」
「あの頃の私は自分に自信が無く、大公家にも身の置き場がないように感じていました」
「申し訳ありません。私が至らないばかりにあなたさまに寂しい想いをさせました」
実の父親に頭を下げて欲しい訳ではない。あの頃は公に出来ない事情があった。それは今も同じだけれど、他人の目さえなければ、ローダント侯爵に「父上」と呼ぶことは許されている。二人の距離が縮むには、長い年月が必要だっただけのことだ。
「止めて下さい。けして謝って欲しいわけではないのです。ただ、立場は違えども、あなたは父親として私の側にいて下さった。そのことにお礼を言いたかったのです」
「リヒモンドさま」
「あなたに教育してもらうまでは、甘やかされて育てられてきたので、よく分かっていなかったのです。その為にあなたには反発ばかりしていました。すみませんでした」
「いえ、私もあの頃、あなたにどう接して良いのか分からない時もありました。その為、実はカール爺さんに教えを乞うていたのですよ」
「……カール爺さんに?」
意外だ。侯爵は完璧主義者に思われていたので、誰かに教えを乞うなど想像もつかなかった。
「カール爺さんは笑いながら言っていましたよ。リヒモンド坊ちゃんは反抗期を迎えているのだと。誰にでもある通過儀礼だから、手がかかっても見捨てずに関わっておあげなさいと言われたのですよ」
ローダントは懐かしむように言った。
「親子でカール爺さんにお世話になっていたのですね」
「彼はもともと私の養育係だったのです」
「……!」
「年を取ってからはヘッセン家を辞めて、庭師に転向したのですよ」
カール爺さんの意外な遍歴に驚かされた。この後、久々に裏山に向かうと、そこにカール爺さんが静かに佇んで待っていた。
「おや。宰相さまになられたというのに薪割りですか?」
「ここは私の息抜きの場のようなものですから」
上着を脱いで、まだまだやれますよと斧を借りて握ると声がかかった。
「答えは出ましたか?」
「……?」
「以前から悩まれていたでしょう? 自分は一体、何者なのか? と」
薪を割った音にその声は被さった。真っ直ぐに斧を振り落とす。カツーンっといい音がした。
「自分なりに答えは出ましたよ」
雲一つない天を仰ぎ、斧をあった場所へ返すと、カール爺さんが言った。
「迷いは振り切ったようですな」
「私はリヒモンド・レバーデン。大公弟であり、この国の宰相であり、生涯大公夫妻をお支えし続ける」
誓うように言えば、カール爺さんが背後であの日のような好々爺の笑みを浮かべているような気がした。振り返るとそこに爺さんの姿はなく、爺さん愛用の斧が木漏れ日を受けてキラリと輝いていた。




