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1話・自分は一体、何者なのか?


 自分は一体、何者なのか?


 物心ついた時には、両親や優しい使用人達に囲まれて暮らしていた。幼い頃の自分の世界は、自分を甘やかしてくれる両親と、側にいてちやほやしてくれる使用人達と、父や母の取り巻きらで形成されていて、それがいつの日か崩れ去る日が来ようとは想いもしなかった。


 段々と成長するにつれて、ある疑惑が自分に付いて回ることになる。自分の外見は父である大公にも、母親のネルケにも似ていなかった。そのことで心ない者達は噂した。


 第2公子はローダント侯爵の子供ではないのか? と。


 気になって父に聞けば、噂していた者達は静かにいなくなっていた。今思えば粛清されたのかもしれない。その一件以来、自分の出自を疑う者はみかけなくなったが、自分の周りには、おべっかを使う者達ばかりが侍るようになった。

 そのうち母が父に対し、継承権のことを仄めかすようになってきた。今まで母のお強請りを何でも聞いてきた父は、こればかりは反対した。



「リヒモンドには継承権は与えない。リヒモンドでは駄目だ」


「どうして? 何がいけないの? あの子が産まれた時に、お義父さまの前でも、継承権を与えるって言ってくれたじゃない」



 父は頑なに拒み、母は納得のいかない顔をしていた。毎晩のようにそのことで言い合いをしていたある日、ポックリ父は亡くなった。心労が堪っていたようだ。

 きな臭い毒殺ではなかったことに安堵したが、その代わり父を失ったことで、自分達に甘い顔をして言い寄って来ていた人々が去り、いつの間にか独りぼっちになっていた。母でさえ、自分を置いて去ってしまった。


 その私を保護したのは、父の正妻だったベアトリスさまだった。その息子で新たに大公となった兄であるウルガーには妻子があり東館で生活していた為、私はベアトリスさまと暮らすことを条件に、今まで通り西館で暮らすことを許された。

 ベアトリスさまは使用人達を一新し、新たな教育係が決まるまで、ある男性を臨時教育係として私につけた。


 その男性の事は知っていた。以前、自分の本当の父ではないかと噂されていた人だ。ベアトリスさまを介して紹介を受けた時に衝撃を受けた。確かに親子と言ってもおかしくないほどよく似ていた。


 あなたは私の本当の父ではないのか?


 そう疑いながらも口には出来なかった。侯爵は私の前では気難しい顔をして、甘えを一切妥協しない。今までとは違う扱いに、ある日何もかも嫌になって裏山に出てみれば、庭師のカール爺さんが薪を切っているのに出くわした。



「どうしました? リヒモンド坊ちゃん」


「カール」



 思い詰めた様子に何か感じたのか、カールはお腹空いていませんか? と言って、石造りの竈にかけていたお鍋から、一杯のスープをカップに注いでくれた。



「これは……?」


「キノコのスープです。キノコはお嫌いですか?」


「ううん。頂くよ」



 切り株に腰掛けて温められたカップの中身を、フーフー息をかけて冷ましながら頂くと、お腹が空いていたせいかとても美味に感じられた。千切りにされた肉厚のキノコがとても美味しかった。



「何かありましたか?」



 好々爺の笑みに促されるようにして、気が付けばポツポツと話し出していた。取り留めのない話から不満に思っている事など、まとまりがつかなかったけれど、心の中に巣くっていたものを全て吐き出していたように思う。


 カールはウンウンと聞いてくれた。


「僕って駄目な奴なんだ」



 だからきっと生前、父は母が自分に継承権をと言い出した時に、リヒモンドでは駄目だと言ったのだろう。


 自分には何もない。何をやっても上手く行かないと涙を零した私に、カールは言った。



「初めから上手い人なんていませんよ。坊ちゃん。皆、失敗を繰り返して大人になっていくものです」


「そう?」


「そうですとも。若い内は何度も失敗を繰り返して良いのですよ。その為に先生がいるのです。坊ちゃんが初めから上手く何でもやれたなら、教育係なんて必要ないですよ」



 カールがそう言って顎をしゃくった先には、ローダントが後を付けていたようで待っていた。



「リヒモンドさま。お迎えに参りました」


「……カール。また来てもいい?」


「こんな所で良かったらいつでもどうぞ。でも、今度はちゃんとお勉強を終えてからいらして下さいね」


「うん」



 ローダントが、ハンカチを差し出して来る。遠慮無くそれを借りて涙を拭くと、立ち上がるのに手を貸してくれた。

 その手を握ったままローダントは歩き出した。その歩みは遅く私に合わせてくれているようだ。



「カール爺さんとの話は、楽しかったですか?」



 頷くと「それは良かったです」と、生真面目な男が相好を崩した。握られた手は宮殿に着くまで離されることはなく温かかった──。





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