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3話・俺にはきみだけだよ



「いや、大丈夫だよ。実は……、以前から考えていたことがあって、今回バレリーが妊娠した事で国に認めてもらおうと思っている事案がある」


「何かしら?」


「この国では大公位は、大公の息子が継ぐと決まっているだろう? それを娘にも認めさせたい」


「……!」



 この国では大公位を継ぐ者は、大公家に産まれた直系男子とされている。そして産まれた男児の第一子が、後継ぎになるのが当然とされてきた。女子は婚姻後、大公家から籍を抜かなくてはならない。



「俺はこれからバレリーのお腹から生まれてくる子に、性別に関わらず継承権を与えたいと思っている」


「それってもしも、この子が女子だったとしても後継者として認めてもらえる?」



 古くから脈々と繋がってきた大公の男系男子の系統を、自分達の代で変えてしまうことになる。大公家を支えてきたヘッセン家の娘としては、罪深いようにも思えてくる。



「不安かい? バレリー」



 ウォルフリックは、私の顔色を読んだように聞いてくる。



「反対では……ないです。ただ、昔からそう定められてきたものを変えるなんて発想、私にはなかったので恐れ多いというか……」


「大丈夫だ。もしもなにかあったら俺が責任を取れば良いことだ」



 腹を括った様子の彼は、揺るがなかった。



「済まなかった。今まで継承権の改正ばかりに頭が占められていて、きみの様子を気遣う暇も無かった。きみの顔を久しぶりに見た気がするよ。この子が産まれる前に、どうしてもきみの負担を軽くしてやりたかった。今まで三部会の用意をしてきた。これは大公家の存続に関わる問題でもあるから、皆の承認を得ることにした」



 この国は主に、「貴族」「僧侶」「平民」の三つの身分に分類されている。三部会とはその三つに分かれた身分の代表者を呼んで行われる会議のことだ。



「貴族と僧侶の代表にはすぐ会えたが、平民の代表には仕事が忙しいとかでなかなか会ってもらえなくてね、朝早くから出かけて交渉していた。それがようやく参加を認めてくれそうだ」



 法律を改正することになって、ウォルフリックは自ら出向いて三部会の会議への参加を呼びかけていたらしい。

 大公家ならば命令を出して呼び出す事もできるが、彼の性格上、一方的な通知で相手を呼び出すことはしたくなかったのだろう。それも取り扱う内容が大公家の継承権に関わることだから、相手方の賛同を得て承認を得たい思いが強いのかも知れなかった。



「俺達の子や、子孫の未来がかかっているからな」



 ここが踏ん張りどころだ。と、ウォルフリックは言った。それが自分の使命とでも思っているような様子で、そんな夫が誇らしく思えた。彼と会う時間が減って浮気しているのでは?と、少しでも疑った自分を恥じた。



「ごめんなさい」


「どうした? 甘えたくなった? 部屋に送るよ」


「でも、お仕事忙しいのでしょう?」


「今日は朝早くから出かけたから、眠くて仕方ないんだ。会議への参加を渋る平民代表は、何とか説得出来たし。きみの部屋で少し、休ませてもらってもいいかな?」



 ウォルフリックにそう言われたら、私に拒む理由はない。二人で自分の部屋に戻ってくると、ウォルフリックが目を輝かせて言った。



「これはバレリーが編んだのかい? 小さくて可愛いな」



 入室してローテーブルの上の、編み籠の中を覗き込んだ彼はそれを手にした。



「良く出来ている。俺にも何かつくって欲しいな」


「何が良いですか?」


「そうだな。マフラーとか、膝掛けとかが良いな」


「分かりました。これを編み終えたら作りますね」



 ウォルフリックに強請られて嬉しい気分になる。これでまた、やれることが一つ増えた。時間潰しが出来た。



「無理はしなくて良いよ。きみの手が空いたときにでも」


「あなたまでそれを言います?」



 仕事を取り上げられて、何もすることがなく暇な私なのにと、ふて腐れたくなった。大体、こうなっているのもウォルフリックのせいなのだ。あれこれ使用人達に指示しているせいで、私は仕事を取り上げられて何もすることのない状態にある。そんな中で編み物は許可してくれただけ良いのかも知れなかった。



「ここで昼寝をさせてもらっても良いかな? バレリーも一緒にどう?」



 妊婦の私を気遣うようにウォルフリックが誘ってくる。寝台に先に横になった夫の隣に入り込むと、腰に腕を回された。



「バレリー。俺にはきみだけだよ」



 遠回しに愛していると言われたような気がした。「私も」と言うより先に唇を奪われていた。


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