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59話・お互い食い違っていた


「それでもあなたさまは、私の無礼に目を瞑ってくださったのですね?」


「理由は分からないけど、何か誤解されているとは感じていた。まだ俺とは出会ってないはずのきみが、10年前の思い出話を持ち出してくる度に、誰のことかと思っていた。でも、あれはディジーのことだったんだね?」


「すみませんでした。あなたを試していたのです」


「そうだろうと思っていたよ。この間の牢屋でのネルケ夫人との会話で何となく察した。ディジーは俺と出会う前まで公子として育てられてきたと」


「その通りです。ディジーさまは『ウォルフリック』公子として育てられてきました。私は彼女が大公妃の過度な期待に応えるべく、暮らして来たのを知っています。彼女が自分には兄がいると教えてくれて、兄が帰ってきたのなら、自分は公女に戻れるのだと嬉しそうに言っていたのを覚えています」


「だから顔合わせの時に、『どうして今になって現れたのですか?』 と言っていたのか。もう少し早く現れれば、ベレニスを公子役から解放出来て、今頃彼女は公女としてこの場にいたかも知れないのにと、言いたかった訳か」



 納得したと、ウォルフリックは言った。それまでベレニス(ディジー)が公子として育てられてきていたことを彼は知らなかったようだ。私は当然、知っているものと思い込んでいた。



「どうもきみの話を聞いていると、俺の他に公子がいたように思えるのに、婆ちゃん達に聞くと俺の他に公子はいないと言うし、リヒモンド兄さんのことかとも思った時もあったけど違った。話が噛み合ってないように思っていた」


「お互い食い違っていたようですね」


「そのようだね。ところできみはどうなの?」


「何の話ですか?」


「このままいくと俺との結婚は覆す事はできない。俺との結婚に納得がいっている?」


「何を言い出すのかと思えば。当然ですわ。婚約をお受けした時点で断る気はありませんでした」



 これまで彼と接していく内に、何となく彼の人柄というものが知れてきたし、拒む理由はない。ただ、不安要素はあるけれど──。



「大公さまや、先代さまのような悪癖だけは引き継がないでくださいね」


「当然だよ。俺はこれでも一途な方だ」


 昼餐の間に、柔らかな陽気に包まれて朗らかな笑いが満ちた。





 ディジーが母親と宮殿を去る前日。私は彼女に会いに行った。隣国に彼女が渡ってしまえば、この先なかなか会うことはないだろう。


「バレリー。色々と迷惑をかけてごめんね」


「良いのよ。もう済んだ事だし。ねぇ、ディジー。久しぶりに裏山に行ってみない?」


「えっ? 裏山。ちょっと今日は……」



 私が誰に会わせようとしているのか気が付いたのだろう。ディジーは断ろうとしてきた。その腕を私は引いた。



「さあ、行きましょう」


「あ、ば、バレリー?」



 私の突然の行動に驚きながらも、彼女は手を振り払う事はしなかった。私に腕を引かれるまま着いてきたディジー。あの日とは逆のパターンね。と、思いながら足は速くなる。



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