58話・あなたはそれで良いのですか?
「何とかマナーや教養は及第点をもらっているが、口調はなかなか直せなくて。親父や婆ちゃん、きみの前では気が緩んでしまうな」
「あなたさまらしくて、それも良いのではないですか?」
「本当? 嫌いにならない?」
「なぜ?」
「田舎者だと思われていたら、どうしようかと思っていてさ」
「そのようなこと気にはなりませんよ。ウォルフリックさまは、ウォルフリックさまでしょう?」
「ありがとう。きみのその言葉に励まされる」
ウォルフリックに微笑みかけられると、何だか最近、胸元が落ち着かないような気にさせられる。それから気を逸らすようにある事を聞いてみた。
「そう言えば、以前家族からウォルフリックさまが帰ってきたと聞かされた時に、隣のアルノ王国で今まで平民として暮らしてきたあなたが、お祭り広場で乱闘騒ぎに巻き込まれて怪我を負い、城兵に保護されてアルノ王へ報告が上がった事で、レバーデン大公家に所縁のある者ではないかと、問い合わせがあったと聞いたのですが、それは口実でしたか?」
それを理由に大叔母はアルノ王国へ行き、そこで初めてウォルフリックが本人だと確認し、連れ帰ってきたと父は語っていた。
「いや。半分本当のことだよ。婆ちゃんとは前に話したとおり隣国に渡る前から繋がりはあったし、謝恩祭がお祭り広場で開かれていて、それをディジーと一緒に見に行ったら、ディジーに柄の悪い男達が言い寄ってきた。それを断ったら一方的に殴られて腹が立って殴り返したら、それが大きな騒ぎになった。ディジーが助けを求めた城兵に保護されて事情聴取を受けていたら、そこにアルノ王がお忍びでいたらしく、俺の姿を見て、レバーデン大公に似ていると言い出した。それで婆ちゃんらの元に知らせが行った」
「隣国で騒ぎになる前に、帰国したのですね?」
「そういうことになるかな。教養の面では問題ないと婆ちゃんは言っていたし、そろそろ大公家で暮らしてはどうかと打診はされていたから、俺にとっては来るべき日が来たと思っていた。ディジーは記憶喪失のままだったけど、俺について行きたがった。その結果、こうなっている」
「あなたはそれで良いのですか?」
「ん?」
「このままだといずれ大公の座に就くことになりますが、それは承知しているのですか?」
「勿論だよ。アリアンヌ大公妃が亡くなった時に、ディジーはショックを受けて記憶を無くしていたし、誰かが支えてやらないといけないと子供心に思った。だからこいつの為にも俺が大公になる。そして誰の手からも守ってやると誓った」
ウォルフリックの発言には迷いがなかった。6歳の頃には彼は自分の進むべき道を見つけていたのだ。それなのに私は知らなかったとはいえ、初対面でとんでもない発言をしてしまっていた。
「初めてあなたにお会いした時に、あなたは一体、どなたですかなどと言ってしまって申し……」
「いやあ、あれには堪えたなぁ。婆ちゃんから許婚であるきみのことは聞かされていた。だから会えるのをとても楽しみにしていた。それなのにあのようなことを言われてピンとこなくて、何のことだろうと思った」
今になって謝るのも遅いだろうが、無礼なことをした自覚はある。謝ろうとしたのをウォルフリックに遮られてしまった。




