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53話・10年前のアリアンヌ大公妃が亡くなった真相


「それがちょっとおかしいのですよね」


「あたしは正直に話したわよ」


「私には、あなたが嘘を言っているようには思えません。ウォルフリックさま、あなたはどう思われますか?」



 それまで黙って聞いていたウォルフリックは、一瞬眉根を寄せたが、元の表情に戻った。



「バレリーは、どのあたりが気になっているの?」


「私は大叔母さまから、証言者となったウォルフリックさま、あなたの証言を聞かされています。あなたさまはこう言ったそうですね? あの日階段下から現れた女性が、ベレニスをどこかへ連れて行こうとした。そこにアリアンヌさまが階段上から現れ、ベレニスをその女性から引き剥がした。するとその女性は、アリアンヌさまが身を屈めた瞬間に、その背中を押してきた。咄嗟に手すりを掴もうとしたアリアンヌさまは、その女性と揉み合い落下したと。でも、その話だと無理があるのですよ」


「……?」


「咄嗟に手すりを掴もうとしたアリアンヌさまがどうして、女性と揉み合いになるのですか? 手すりを掴もうとしたのは落ちようとしていたからですよね? そのような状態で揉み合いになるとは考えにくいです」


「……!?」


「ネルケ夫人の言葉だと揉み合ってから、その後に背を押したことになっています。その方が動きとしては自然です」


「順番なんかどうでも良いでしょう? あたしがやったのよ」


「真相は違いますよね? ウォルフリックさま」



 ネルケは自分が犯人なのだから、後はどうでも良いだろうと言ったが、そのままにはしたくなかった。この場には当時の事情を知る二人がいる。当時6歳だったウォルフリックの記憶力はあてに出来ないかも知れないが、話の食い違いが気になった。



「これは私の推測ですが、夫人達が揉み合ったのならば子供達はそれを止めようとしたのでは無いでしょうか? 場所は狭い踊り場です。そこから子供のどちらかがはじき出されて落ちそうになっていた。それに気が付いた夫人のどちらかが子供を庇い落ちた。そして慌てて残った夫人が階段を駆け下りようとして、ドレスに躓き不幸が起きた。そして子供を庇い、階段下に落ちて無事だった夫人は、踊り場から手を伸ばす子供が見えて、その子供が罪悪感を持つ事のないよう、自分がやったのだと言い含めた」


「凄いな。きみは当時を見てきたように言う」



 私の推測に、ウォルフリックは感嘆の声を漏らした。



「きみのような人に嘘は通じないね。そうだよ。あの日──」


「違う。あたしがやったの。それでいいでしょう」


「ネルケ夫人。この件は事故だった。あなたのせいじゃない。あの子も関係ない。父に近々、真実を話すつもりだった。あの件ではネルケ夫人が一方的に悪者にされてしまう」


「構わないわ。あたしは大公を刺した女よ。処刑されるのが決まっているのだから、罪が一つ、二つ増えようが関係ない」


「たとえそうだとしても関係のない罪まであなたにかけるのは間違っていると俺は考えている。親父も10年前の真相に気がつき始めている。俺が言わなくとも、気が付いているかも知れない」



 鉄格子を掴んでいたネルケは、ズルズルとその場にしゃがみ込む。「あたし、あたしなのよ」と、口ずさみながら。彼女が庇うとしたら一人しかいない。



「あの日、何があったのです? ウォルフリックさま」


「ほぼ、きみの言った通りだ。踊り場で遊んでいた俺達の前に、ネルケ夫人が階段下から現れた。ベレニスを連れて行こうとしていた。それを止めようとして俺は助けを求める声を上げた。その声を聞きつけたのだろう。アリアンヌ大公妃が来た。大公妃はベレニスを夫人の手から振り払い、夫人とつかみ合いになった。揉み合っている二人を見て、俺達は止めようとした。そこで揉み合う二人から俺が押し出されて落ちそうになった。それに先に気が付いたのはネルケ夫人で、夫人は俺を庇い階段下に落ちた。俺は夫人に庇われて何ともなかったが、夫人の腕の中から出て体を起こそうとした時、アリアンヌ大公妃が踊り場から落下してきた。そして踊り場から手を伸ばすベレニスも見た。夫人もそれを見たのだろう。目の前で亡くなった大公妃を見て呆然とする俺達に、夫人が言った。大公妃は自分に背中を押されて階段から落ちたのだと皆には伝えるようにと」


「それが真相だったのですね?」


「俺は自分の命を救ってくれたネルケ夫人を疑われるのを恐れ、見知らぬ女が来てやった事だと婆ちゃん達に言い張った。そのせいでさらに疑われる状況を作ってしまった」


 申し訳なかった。と、ウォルフリックが頭を下げようとしたら、ネルケはそれを拒んだ。




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