48話・クランチオ侯爵の異変
いつものように、ウォルフリックの昼餐の時間に会わせて登城すると、私の乗った馬車とすれ違うように出て行った馬車があった。窓越しに赤毛の女性が見えた気がして気になっていた。
「ウォルフリックさま」
「どうした?」
「ディジーさまは、どこかお出かけなさっていますか?」
「ああ。今日は天気が良いから公都の中央公園に出かけると言っていたよ。最近、あいつどこか元気がなくてさ。気晴らしになるならと、許可したよ。中央公園には大きな湖があってボートに乗れるらしいね。今度、一緒に行ってみないか?」
「良いですね。ぜひ」
ウォルフリックが照れくさそうに誘ってくるのに、頷いていると、一人の侍従が彼の側まで来て耳打ちした。ウォルフリックの顔色が変わる。
「何かあったのですか?」
「貴族牢に捕らわれていたクランチオ侯爵が突然、倒れて意識不明らしい」
「……!」
貴族牢は平民達が入る石造りの冷たく暗い牢とは違い、客間に鉄格子が取り付けられている豪華な檻のようなものだ。食事も宮殿で暮らす者達と、そう変わらない物が出されている。
そのような状況の中での、侯爵の突然の意識不明。何かが起きているとしか思えない。
「これから侯爵の元へ向かおうと思うが、きみはどうする?」
「お供致します」
昼餐の時間にこんな事になって済まなそうなウォルフリックに、同行を申し出た。現場に向かうと檻のドアの鍵は明けられていて、数名の兵が待機し、檻の中へ宮殿医師が入って、寝台に寝かせられている侯爵の様子を見ていた。その檻の外には大公がいた。
侯爵は意識が朦朧としているようで、魘されたように何事か呟き、医師に薬を飲まされているのが見えた。
「クランチオ侯爵の様子はどうだ?」
「はい。食中毒かと思われます。いま、食したものを吐き出させたので、もう大丈夫かと思われます」
そう言う医師の表情は硬かった。
「原因は何だ?」
「それがよく分かりません。恐らくそうではないかと思われる表情で……」
「まさか毒でも盛られたのではないだろうな?」
大公は首を傾げる。
「クランチオ侯爵が倒れられる前に、どなたかとお会いになっておられませんでしたか?」
ふと気になって口を挟むと、この部屋の警備をしていた兵がそう言えば……と、教えてくれた。
「ディジー嬢が、クランチオ侯爵に会いに訪れておりました」
「ディジーさまが?」
何故? と、言いたげな顔でウォルフリックと、大公が顔を見合わせた。私は嫌な予感がした。
「やはりあの馬車は、ディジーさまが乗っていたの? もしかして彼女は誰かに会いに行った?」
「バレリー、何処へ行く?」
胸騒ぎを感じてその場から退出すると、ウォルフリックが後を追ってきた。




