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47話・血の繋がり



「何度か過去には式典でお会いすることはありましたが、こうして直接お会いするのは初めてですね。クランチオ侯爵」


「おまえは……?」



 檻の中の老人は、ソファーに腰を下ろしたまま、入室してきた赤毛の娘を見た。老人が入れられている貴族牢は、内装は豪奢な作りで、客人用の部屋と大して変わりはなかった。ただそこに天井から鉄格子が二人の間を遮るように渡されていた。



「私はディジーです。どうぞお見知りおきを」


「ああ。お前がディジーか。噂には聞いておる。平民の娘がわしに一体何の用だ?」



 優雅に膝を折って自己紹介してみせたディジーを、侯爵は凝視した。彼女がして見せた挨拶の所作は、一部の隙もなく見事なもので、一平民に出来るものでは無かった。



「お前は平民ではないのか? ウォルフリック公子が隣国から連れ帰ったと聞いているが」


「本気でおっしゃっておりますの?」


「なに?」


「よくご覧下さいな。私の顔立ちが誰によく似ているか。そして髪の色や、瞳の色は誰のものかお分かりかと思っていました」



 ディジーは、ゆっくりと格子まで近づいた。クランチオ侯爵に自分の顔を見せ付けようとした。



「私の顔は大公さまによく似ているでしょう? そして髪や瞳の色はネルケさまに似ている。これが偶然だとでも?」


「あれの産んだ子がお前? そんなはずはない。あれは──」


「私は正真正銘、ネルケ夫人が産んだ子ですよ」



 ディジーの告白に、侯爵は目を剥いた。



「信じられませんか? 私はこの世に誕生した時から、あなた方の期待に応える為、公子として生きてきました」


「何? おまえが公子? まさか10年前にいなくなった公子とはお前のことなのか? でも公子は黒髪をしていた」


「さすがに成長すれば、男児と偽るのもきつくなりますからね。髪なんて染めれば、どうにでもなるものですよ」


「……。性別を偽ってきていただと? 大公妃に騙されていたのか。あの女……!」



 クランチオ侯爵は悔しがった。



「私はてっきりあなたさまが、次期大公さまにリヒモンドさまを推してきたのは、私の性別を偽って公子になっていたことを知っていたからだと思っていました」



 この国では女性には継承権がない。その為、女である自分が公子として養育されている事を知った侯爵が、リヒモンドを次期大公にと推してきたのかと思っていたとディジーが言えば、クランチオ侯爵はそのようなつもりはなかったと言った。



「わしは知らなかった。どうしてそのようなことに?」


「大公さまがいけないのですよ。ネルケさまよりも先に妾に子供を産ませていて『ウォルフリック』と、名前まで与えられた。二番手の私は大公家の為、あなた方の期待を裏切らない為に、彼に成りすますしかなかった」



 クランチオ侯爵は、ディジーのことが不憫に思われたようだ。本物のウォルフリックが現れて、ディジーは用済みになったように感じられたのかも知れない。

 ディジーは、悲壮な顔付きになった侯爵とは逆に、ひょうひょうとした態度で答えた。



「あなたは10年ぶりに会ったウォルフリックに、幼い頃の面影が感じられなくて偽者ではないかと疑われた。当然です。10年前のウォルフリックは私が演じていたのですからね」


「……」


「でも、ご安心ください。帰ってきた公子さまは本物です。大公さまの血を引いておられます。これであなたさまが危惧されていたことは問題なくなりましたよね? クランチオ侯爵」


「ディジー」


「大公家の血筋はこれで正される。私やリヒモンドさまの出番は必要ありません」


「何を?」



 安堵したようなディジーを見て、クランチオ侯爵は問いかけた。ディジーは怪訝そうに見返した。



「まさか気が付いておられなかったのですか? 侯爵。リヒモンドさまは──」


「それは……真か?」



 ディジーの話を聞き、クランチオ侯爵はその場に崩れ落ちた。





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