44話・ウォルフリックの目標とする人
「ディジーは、親父や婆ちゃんの前では臆した態度を取っていたけど、俺達の前ではしっかり者で、花屋の看板娘として街でも評判が良かった。お客に愛想よく振る舞っていた。それが身についているような子だ。相手にわざわざ嫌われるような態度は取らない。相手がよほど嫌な奴ではない限り」
「それは接客の仕事だから、そう振る舞ってきたのでは?」
「いや、性格も穏やかな方だ。誰かを傷つけるような言動を自分からはしない。それなのにあいつは、ここにきた当初からきみに冷たく当たり出した」
「大好きな兄を、婚約者である私に取られる気がしたからだと思っていましたが?」
私がそう言えば、まさかと彼は笑った。
「それこそあり得ないよ。俺に許婚がいることは婆ちゃんから聞いていてあいつ、ここに来る前から俺がしっかりしないと、その許婚に愛想つかされるよ。なんて言っていたぐらいだ」
それなのに、許婚のことを大事にしろと言っていたディジーが、私に好意的ではない態度を取り始めて、彼はおかしいと感じていたようだ。
「それにあいつは子供の頃から、大人がいない場所で『リックは兄さんには遠く及ばないよ』と、誰かと比べるような発言をしていた」
「兄さん?」
「おかしいだろう? あいつの兄さんというのは肉親では俺しかいないはずだ。親父は若い頃から浮名を流してきたと聞くし、こっそり婆ちゃんに確認したぐらいだ。でも、他に兄弟は存在しないらしくて、そうなるとあいつがここに住んでいた頃に、兄のように慕っていた相手の事だろうなと思っていた」
「リヒモンドさまでは?」
「きみもそう思う?」
「はい。ベレニスは幼い頃からリヒモンドさまを慕っていました」
やはりそうかと、ウォルフリックは納得していた。
「分かる気がする。リヒモンド兄さんは、しっかりしているし、婆ちゃんにも頼られているから。もしも、兄さんが大公家特有の色を持って生まれていたのなら、彼の方が次期大公に相応しい」
「ウォルフリックさま」
「あ。いや、別に自分を卑下している訳ではなくて、実に勿体ないというか、俺が目標とする人だよ。バレリーもリヒモンド兄さんのこと気になったりする?」
彼はこちらを伺うように見てくる。彼の発言にどのような意味があるか分からないけど、思ったままを言ってみた。
「良かった。きみまでリヒモンド兄さんを憧れの目で見ていたとしたら、兄さんに嫉妬しそうだったよ」
兄に恋愛感情なんてもったことはないと言えば、彼は安堵のため息を漏らしたように見えた。
「ウォルフリックさま、それって……」
「話を脱線させて悪いけど話を戻すよ。あいつの憧れだった存在がリヒモンド兄さんだったとすると、言動がおかしく思えてくる」
「記憶喪失の部分で?」
今の発言で気になるものがあったのに、話を戻されてしまい。追及を躱されてしまったように感じた。




