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42話・家族



「相手には予想が付いていたけど、ウォルフリックの証言だけでは心許なくて……。でも、それがようやく判明しそうなのよ」


「証拠は何も無いのですよね? 何か他に証言者でも?」


「いや。アリアンヌは手がかりを残してくれていた。彼女は相手と揉み合った際、相手から頭髪を引き抜いたようだ。右手に相手の女性の髪の毛が絡みついていた」



 大公が重々しく口を開いた。



「隣国で親子の鑑定が出来る技術があることは知っているかな?」


「ウォルフリックさまから聞きました」


「隣国のある研究機関ではそれ以外にも、手に入れた髪の毛などからそれが本人のものか、どうか調べる事が出来る」


「つまりアリアンヌさまが残してくれた手がかりと、疑わしき女性の髪の毛を調べたのですね?」



 疑わしき女性と言えば、一人しかいない。私の脳裏にウォルフリックとの婚約披露パーティーで、大公に冷たくあしらわれたネルケ夫人の姿が思い浮かんだ。



「若気の至りだった。反大公派には調子に乗らせてしまったが、これからはそうはさせない」



 そう言う大公の瞳には、強い意志が感じられた。悪癖さえなければ、もともと優秀な人なのだ。ひらひらと女性の間を飛び回ってきた雄蝶の、ここが正念場と言えるだろう。



「親父」


「ウォルフリック」



 父親が刺されたと侍従から聞かされたのか、ウォルフリックが駆けつけて来た。部屋の外に近衛兵を残して入室してくる。



「脇腹をナイフが掠めただけで命には問題ないわ」


「良かったな、親父」


「そう簡単には死なないさ」



 不安な様子の彼に、大叔母が大丈夫だと声をかけた。ホッとした様子のウォルフリックと、彼に微笑む大公を見ていて父子なのだなと感じた。



「どうしたの? バレリー?」


「ウォルフリックさまは、随分と大公さまと仲が宜しいのだなと思いまして」



 思わず疑問を口にしてしまった。10年ぶりに再会する父子にしては、打ち解けすぎてないかと思ったのだ。それに大叔母のことも気安く「婆ちゃん」と、呼んでもいた。



「俺にとっては父さんや、母さん、ディジーも、親父も婆ちゃんも大切な家族だよ」


「……?」



 私の疑問をウォルフリックは、大した事のないように言った。大叔母が補足説明をしてくれる。



「ロズリーヌ達が隣国に渡ってから、子供達のことが気になって、私達は彼らの元を何度か訪れていたの。ベレニスは相変わらずロズリーヌやウォルフリックに付いて回って離れなかった。それが堪えたけど、ウォルフリックは人見知りせずに人懐こくて、すぐに私達を受け入れてくれた」


「ディジーには記憶が無かったし、親父達の事を親戚の小父さん、婆ちゃんとしか思って無かったからね。婆ちゃんのことは、それでも俺の後ろに隠れて様子を窺っていたし、お土産をもらうと嬉しそうにしていたよ。二人が帰る時は寂しくなるのか涙ぐんでいた」



 大公はベレニスが記憶を失い、自分の事を忘れて怯えられるようになったのがよほど堪えたようだ。



「でも、ディジーは記憶を取り戻したし、これで親父も一安心だろう?」


「まあな」



 怖がられて拒否される状態からは解放されたということ? 大公を見れば苦笑していた。



「バレリー。ウルガーは愚かだったけど、ベレニス達が隣国に渡ってから、アリアンヌの死の真相を探っていたのよ。自国で動きを見せれば、反大公派に足を掬われる。外遊に出かけたと思わせて隣国に出向き、ある研究機関に投資して協力を求めてきた」


「これで証拠は出揃った。反大公派に鉄槌を下すことが出来る」




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