41話・小さな目撃者
「バレリー。でも、あなたのことだからそれも察してはいたのでしょう?」
「先ほど大叔母さまに言いましたが、大叔母さまが修道院に来られた時に、私は大叔母さまの言葉で、帰
ってきたのは『ウォル』なのかどうかの他にも気になることがありました」
「……?」
「どうして大叔母さまは、ウォルフリックさまが帰ってきたと言ったのか。そこは見つかったと言うべきではないかと」
「……!」
あの頃、大公家はいなくなった公子の事よりも亡くなった大公妃の葬儀に重点を置いていた。そこに子供心に大公家は何と、非情なのだろうかと思っていた。
しかし、その裏では秘密裏にウォルフリック達は、隣国へと逃がされていたのだ。事情を知った今はそのことを責める気にはなれなかった。
大叔母の言葉で、公子はいなくなったのではなく、何らかの事情で隠されていたのではないかと推測したといえば、大公が「さすが母上の秘蔵っ子だな」と、脇で声を上げたが無視をした。
それにしてもまだ、謎は残る。
「何故、ウォルフリックさままで隣国へ? 彼は手元においておいたほうが良かったのでは?」
「犯人を見たかもしれないからよ」
燻る思いを抱えて大叔母に問えば、意外な言葉に息を飲むことになった。
「……! 事故死ではないのですか? アリアンヌさまは何者かの手によって殺された可能性が?」
「それがなくもないと思ったから一度、大公家から離したのよ」
大叔母は孫達の身を守る為に、二人を隣国へ渡らせたような言い方だった。そうなるとアリアンヌ大公妃の死因が気になってきた。
大公は、大公妃は階段から落ちて亡くなったと言ったが、真相は違うのだろうか?
「当時、6歳のウォルフリックは言ったわ。ベレニスと二人で階段の踊り場で遊んでいたら、知らない女性が階段下から現れて、ベレニスをどこかへ連れて行こうとした。そこへアリアンヌが階段上から現れた。アリアンヌはベレニスをその女性から引き剥がした。するとその女性は、アリアンヌが身を屈めた瞬間にその背中を押してきた。咄嗟に手すりを掴もうとしたアリアンヌは、その女性と揉み合い落下した」
階段下から来たと言うのは、玄関口からその不審な女性は現れたのだと思われた。ウォルフリック達のいた階段の踊り場とは、宮殿正面口にある階段の事だろう。広いホールに面した階段だ。そこから二階に上がると応接間や客間がある。そこの応接間でウォルフリックの養父母や、大叔母や大公夫妻とベレニスは顔合わせをしていたのだと思われる。
「ウォルフリックは、ベレニスが記憶を失ったのは自分のせいだと責めていたわ。彼はアリアンヌが落ちていくのを見て、手を伸ばしたベレニスを止めたらしいの」
大叔母の額には深い皺がよる。当時6歳だったベレニス達に出来ることは限られていた。目の前で起きた不幸が彼らに罪悪感を持たせた。
しかし、悪いのはアリアンヌ大公妃を死に追いやった者だ。
「その女性の外見や特徴は?」
「それがその女性は深くフードを被っていた為、髪とか覚えていないらしくて唯一、その女性を正面から見て分かっているはずのベレニスは記憶を失ってしまった」
そこで大叔母は目撃者となってしまった孫達を、犯人側が何らかの手口で殺めないとも限らない。そこで失踪したと言って、孫達を隣国へと逃したらしい。




