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39話・自業自得



「大公さまっ。お気を確かに」


「静かにしろ!」


「離してよっ。離してったら。その男が全部悪いのよ」


「大公さまを医務室へ」



 侍女から報告を受けて、大叔母と現場へ向かうと、中庭ではネルケ夫人が両脇を近衛兵に掴まれていた。彼女の足下に転がるのは一本のナイフ。担架に乗せられた大公は、脇腹を押さえて蹲っている。

 その状態から見るに、ネルケ夫人が大公殿下を刺したと思われる。大公は近衛兵らが運んできた担架に乗せられて、医務室に運ばれていくところだった。



「ネルケ夫人、なんてことを! 彼女を牢屋に連れて行きなさい」



 大叔母の指示に従い、彼女の両脇を掴んでいた近衛兵が連行していく。彼女は「離しなさい!」「悪いのはあの男よっ」と煩く騒いでいた。



「近衛隊長。報告を」


「大公殿下が中庭を散策中に、ネルケ夫人が現れて大公殿下にある要求を突きつけ、それを大公殿下が拒んだ為、ナイフを取り出し揉み合いとなりました。我々が取り押さえようとする前に夫人が大公に斬りつけ、その場から逃げようとしたのを捕らえました」


「夫人は、大公に何の要求を? それで大公殿下は何と答えたのです?」


「10年前の公子の失踪の真相を語られたくなかったらクランチオ侯爵を解放しろと。大公は何のことか分からないと言って拒まれました」


「……」



 ネルケ夫人は、辺りを取り繕う余裕もないようだ。自分の行動一つで、牢屋に入れられた養父がどうなるのか考えてもいないのだろう。幼稚だ。


 しかも10年前の公子失踪の件を軽々しく、こうも人目のある場所で口にするとは。正気を疑う。

これが前大公殿下の愛人とは呆れ果てる。しかも現大公も手を出してしまった最悪。みっともなく喚き、牢屋へと連行されていく夫人を見て、醜悪としか思えなかった。





「痛てててて……」


「これぐらい、我慢なさい。大袈裟ですよ」



 大公ウルガーの怪我は軽かった。ネルケ夫人が斬りつけた所で、すぐに近衛兵に取り押さえられたとかで傷は浅かった。命には別状がないと知り大叔母と共に安堵した。

 しかし、大叔母はウルガーに優しくなかった。医師の治療で薬が肌に染みて痛いと漏らす大公に、それぐらいで弱音を吐くなと言い放っていた。



「今回のことはあなたの自業自得よ。反省なさい」


「分かっております」



 ウルガーは、母親である大叔母には逆らえないようだ。



「これはきっと、罰が当たったのよ。あなたが女達を弄んできたから。草葉の陰でアリアンヌが怒っているに違いないわ」


「アリアンヌは心優しい女です。そのようなことをするはずがありませんよ」


「そうでしょうか?」


「きみはバレリー?」



 母親を前にして情けない姿を見せていたウルガーは、私の声に気が付いた。ベッドの上で仰向けに寝ていた大公から、大叔母の後ろに控えていた私は死角になって見えなかったようだ。



「はい。大公さま。こうして直接、お会いするのは婚約披露パーティー以来ですね」



 ご無事で何よりですと声をかけた私に、大公は目をすがめた。



「この間は済まなかったね。クランチオ侯爵のせいできみたちの晴れの舞台を──」


「謝罪には及びません。アリアンヌさまのことですが、大公さまはどこまでご存じなのですか?」


「何の話かな?」



 大公が最後まで言い終わる前に、私は怒りをぶつけていた。大公は面食らったようだ。幸いこの場には、大叔母と大公と私しかいない。医師はこの場にいたが、私が大公に話しかけると空気を読んでか、退出してくれていた。

 ウルガーは大叔母の手を借りて、半身ベッドの上に体を起こした。







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