34話・やはり母親でしたね
婚約披露パーティーのあった夜会から数日後。私はウォルフリックに頼んで、ディジーに会わせてもらう約束を取り付けた。
あれから彼女は、私達二人の邪魔をすることはなくなった。以前の攻撃的な彼女の態度を知る者から見れば、無気味なほどに大人しくなっていた。
私に遠慮しているのか、遠目に姿を見てもこちらと目が合うなり、頭を下げて立ち去って行く。今までの事を深く反省しているらしい彼女は、もう二度と私を害する気もなさそうだ。
初めのうちは厄介に思っていた彼女だけど、今は心を入れ替えたようだし、ウォルフリックと結婚すれば彼女は義妹となる。出来れば仲良くやっていきたいと思っていた。
ディジーとの約束の時間に部屋に向かうと、案内をしてくれた侍女に、二人で内密な話がしたいからしばらくの間、この部屋への人払いをお願いした。
中へと入ると、先客がいた。ネルケ夫人だ。夫人は背を向けていた。入室した私に気が付かないようで、ディジーに食ってかかっていた。
「あんたって子は非道ね。お爺さまを助けたいと思わないの?」
「申し訳ありませんが、私に出来ることは何もありません」
そう言いながらディジーは、入室してきた私を気に掛ける目線を送ってきた。それでも夫人は気が付かないようだ。
「そんなことはないでしょう? あんたの方からあの婆さんに、ちょいと頼んでくれれば良いのよ。あんたは以前から可愛がられていたでしょう」
あの婚約披露パーティーの場で、拘束を免れたクランチオ侯爵だったが、大公の不興を買ったのは明らかで翌日には、大公家のお家乗っ取りを企んでいたとして拘束されて貴族牢に入ることになった。これから色々と取り調べが始まることだろう。
その侯爵を助けたいが為に、ネルケ夫人はディジーに接触してきたようだ。
ディジーも、クランチオ侯爵がやらかした件はウォルフリックか、大叔母の方から聞かされていたのだろう。夫人の言うことを鵜呑みにして取り成す事はなかった。
その態度が許せないのか、ネルケ夫人はディジーに食ってかかっている。
「どうして助けてくれないのよ。実の母親の言うことが聞けないの? こうなったのもあんたのせいなのに……!」
ネルケ夫人の罵りに、彼女は顔を顰めた。
「私の母はアリアンヌお母さまです。産み捨てたあなたではない」
「石女のあの女に代わって、あんたを産んだのはあたしよ。あの女があんたに何をしてくれたって言うの? あの女はあたしに嫉妬して、あんたをいびっていただけじゃない。」
「仮令そうだとしても、これだけは言えます。私の母はアリアンヌ大公妃さまただ一人だと」
「生意気な子ね」
ネルケ夫人が手を振り上げそうになったので、私は背後からその手首を掴んだ。感情的になっていた夫人は、後ろから腕を掴まれて驚いた表情で振り返った。
「あんた……!」
「お久しぶりですね。ネルケ夫人。やはりそうでしたか。ディジーさまはあなたの子だったのですね?」
「あ。いえ……、これは──」
「別に隠さなくとも良いですよ。そのことはすでに我が家では調べ上げているでしょうから」
以前、私にディジーとよく似ていると言われて、そんなはずはないと言い切っていた夫人だ。ここで話したことが私に知られていたと知り気まずいようだ。
「お引き取りを。これ以上、ここにいてもあなたは捕縛されるだけですよ」
「私は何もしていないわ」
「果たしてそうでしょうか? お話を聞く限りでは、ディジーさまの置かれていた環境をよくご存じのようでした。それでいてあなたさまは助ける事もせずに放置していた」




