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30話・何かが起こりそうな予感



 パーティー当日。宮殿は物々しい雰囲気に覆われていた。婚約披露パーティーには、国内の貴族らに声がかかっている。大勢の者達が一堂に会する為、念入りに設備や警備等、注意がされていた。


 私のほうは侍女達の手によって入浴させられ、体を磨き上げられて、この日の為にあつらえた夜会用のドレスに身を包み、髪も綺麗に結い上げられて、化粧も薄く施されている。髪飾りや、首飾り、耳元にはブラックパールが輝いていた。

 真新しい靴は身を引き締めて、迎えに来る予定のウォルフリックの登場を待つ時間が、長くも短くも感じられた。


 しばらくしてウォルフリックが、近衛兵を連れて部屋を訪れる。



「綺麗だよ。バレリー。その色が良く似合っている」


「ありがとう。ウォルフリック。あなたってセンスが良いのね。気に入ったわ」


「それは良かった」


「あなたも今まで以上に素敵よ。良く似合っている」



 私の着ているドレスは胸元から下の方に下がるにつれて、青い色が濃く藍色になり裾の方は黒に近い濃紺になっていた。今日の日の為に大公家で用意してくれた物だ。

 ウォルフリックは、オリーヴ色のジュストコールを着ている。金糸が施されていて琥珀が模様の中央を埋めるように付けられていた。


 お互い婚約者の髪色や瞳を模した結果、そうなった。貴族達は婚約発表の場で大概、許婚の色を服装に表すのが恒例となっている。

 本来、ウォルフリックは黒髪なので、私のドレスは黒いドレスになるかと思われたのだけど、ウォルフリックが黒では華やかな場には向かないと反対したそうだ。その為、色にはこだわり、日暮れ時の夜を現すような色が良いと、最終的には決まり、グラデーションを生かしたドレスになったのだと、支度を手伝ってくれた大公家の侍女達が教えてくれた。

素材も上質な物で、色も形もウォルフリックが拘って作ったものらしく、彼のセンスの良さが窺える物だった。



「では共に戦場に向かおうか。許婚どの」


「はい。お供致します」



 ウォルフリックがおどけた様子で言ってきた。内心は緊張しているはずだ。国内から集まってきた貴族達の前での初顔合わせ。皆が次期大公とはどのような若者かと興味津々で待っているだろう。

 一見華やかにしか思えない場には、反大公派もいる。彼らは私達の揚げ足を取ろうと虎視眈々と狙っているのに違いない。でも、この国を背負っていくためには、彼らを上手く御していくのも、この国の上に立つ者の定めだ。


 彼と協力し合ってこの先を進めていかねばならない。いわば初出陣とも言える場に、私達は足を踏み入れた。会場入りした私達に、大勢の目が集まってきた。

 段取りは付いている。先に会場入りしていた大叔母から私達の紹介があり、二人の婚約が告げられると、皆の前でダンスを披露する流れとなっていた。



「この度、ウォルフリック・レバーデンと、バレリー・ヘッセンが婚約を結ぶこととなったことを、皆さまにご報告申し上げます」



 予定通り大叔母から私達の紹介があり、皆から「おめでとうございます」と、祝福の声が上がる。その後、ダンスの流れとなり、中央まで進み出ると私達を取り囲むように、大公派の夫婦や許嫁同士が進み出て来て皆でワルツを踊った。


 ウォルフリックは、ダンスを何度も練習した成果があったのか、私の足を踏むようなことはなく、ちゃんと私を上手くリードして終わった。彼に見惚れる令嬢達も少なくなく、年配の者達は「これでこの国の行く末も安泰ですな」と、囁きあっている声が聞こえてきた。これで彼も次期大公として、周囲の者達に認められつつあるようだ。


 これで何事もなく終われば良かったのだけど、やはりというか心配していたことが起きた。ダンスが終わり二人で自分達の為に設けられている席に戻ろうとした時だった。


 隅の方から「まあ!」と、甲高い声が上がった。聞き覚えのある声に釣られるようにして視線を向ければ、赤毛の女性が取り巻き達に囲まれていた。その隣には老齢の男がいる。




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