28話・元近衛兵
カフェを出ると、外で待機していた数名の近衛兵のうち一人が誰か見知らぬ男性と話し込んでいた。私達がお店から出て来たのを見て、護衛に話しかけていた男は慌てて「じゃあな」と、去って行った。その様子が怪しく思われた。
「トール。今の者はきみの知り合いか?」
「あ、元同僚です。彼は以前、大公家に仕えていたことがありました」
ウォルフリックも男の行動が気になったようだ。他の近衛兵達は私達が店から出てくるのを待ち構えていたのに、彼だけが皆とは別行動を取っていたからだ。
皆の視線が自分へと向けられて、トールは困惑しながら答えた。
「彼は何かきみに言っていたようだが、何の話だったんだい?」
「それが……、近衛を辞めてうちに来ないかと。ここよりも稼ぐことが出来るぞと」
「……!」
トールは皆の険しい視線が向けられる中、答えた。すると近衛の一人が言った。
「トール。あいつをあまり信用しない方が良い」
「そうだ。あいつはここにいた頃から、勤務態度が悪くて隊長も手を焼いていた」
「でも、あいつも初めは真面目に勤めていた。付き合った相手が悪かったと言うか……」
どうもトールに話しかけてきた元近衛兵には、問題行動があったようだ。それでも同期の誼なのかトールは庇おうとするが、仲間の近衛達は注意した方が良いと忠告していた。
ウォルフリックは訊ねた。
「それで彼はうちに来いと誘ったと言ったが、現在彼はどこに勤めているのかな?」
「公都に新しく出来たお屋敷と言っていました。恐らくネルケ夫人のお屋敷かと」
その言葉に、ウォルフリックは私を見た。この一件は単なる偶然? それとも必然的?
「でも、私は話を聞いただけなので、あいつの元へ行こうとは思いません」
「分かった。今度、もしこのような事があったら教えてくれるか?」
トールは上手い話には乗らないと言ってくれた。この元近衛兵に関して調べておいた方が良いかも知れない。あとでコーエンにでも聞いてみようと思ったら、その日の晩餐の席ですぐに分かった。




