27話・俺にもきみを守らせてよ
その後、ウォルフリックとコーエンお勧めのカフェに入る。席は予約されていたようで、奥のサンルームへと案内された。
「まあ、素敵。ここでお茶が頂けるのね」
「気に入ってくれたようで良かった。歌劇はどうだった?」
「意味深長でしたね。少し当て擦りぎみでしたけど」
ウォルフリックが椅子を引いてくれたので、好意に甘えてその椅子に腰を下ろすと、歌劇の感想を聞かれた。演目からして大公家を刺激するようなものだと思っていたが、中身もどことなく謎の若者をウォルフリックに見立てているように思えるのは、疑い過ぎだろうか?
「どの辺りが?」
「リック。という名前です」
「俺も今まで暮らしていた時の愛称を持ち出されたかと思って、冷や冷やしたよ」
あの若者がリックと呼ばれる度に、自分のように思われたとウォルフリックは苦笑した。そう思ったのは私だけではなかったらしい。
「あの劇団のオーナーはクランチオ侯爵らしいね。俺には、おまえのことを見ているぞと警告しているようにしか思えなかった」
「つまりウォルフリックさまに関して、何らかの情報を得ていると?」
「実はさ、俺を育ててくれた親父の名前はローデルフと言うんだ」
「……!」
偶然だと思うかい? と、ウォルフリックは聞いてきた。偶然にしては出来すぎていると思われた。ウォルフリックの以前の愛称に父親の名前。
「もしも、母さんの名前まで出て来たら、その場で発狂していたかも知れない」
「そうならずに良かったですわ」
「まあ。そうなる前に婆ちゃんが差し止めするだろうけど」
ウォルフリックは、くしゃりと笑った。複雑な心境のようだ。
「クランチオ侯爵は、印象操作で攻めてくるつもりだろうか?」
「あの歌劇を見て、リックという若者はウォルフリックさまのことではないか? 本物の公子さまなのだろうかと見に来た観客に疑いを持たせるために?」
「表向きに批判すれば婆ちゃんに潰される。だからこうした手を用いる事にしたように思う」
「そうでしょうか?」
「最後のセリフ、聞いただろう?」
「ええ。『お前は過去の遺物になりさがった。もう時代はおまえを必要としていない』でしたか」
「その言葉にドッキリした。侯爵としては10年前に失踪していなくなった時点で、お前は退散したはず。どうして戻って来た。ゆくゆくおまえの命など握り潰してやると宣告を受けたような気がしたよ」
ウォルフリックがおどけて言うが、よほど衝撃を受けたらしい。あの言葉は私も気になった。ウォルフリックを指しているようにしか思えなかったから。
「大丈夫です。ウォルフリックさまは私達ヘッセン家や近衛隊の者がお守りしています。そう簡単に狙われはしませんわ」
「頼もしいね」
「いざという時は私が盾になります」
「きみに守ってもらうだなんて。俺って最低だな」
「……?」
ウォルフリックが情け無さそうに言う。意味が分からなくて見返すと、彼は苦笑した。
「だってさ、俺よりか弱いきみがそこまで腹を括っているのに、俺は自分のことだけしか考えられなかった」
「誰でもそうかと思いますけど?」
「そうは言ってもなかなか口に出来ないことだよ。他人の為に命を差し出すなんて」
私はヘッセン家の者として、幼い頃から主君の為に命を差し出すことを当たり前として育ってきた。
だから10年前、ウォルが消えた日。本来ならば守るべき相手を失って私は自分の至らなさを嘆いた。
「俺にもきみを守らせてよ」
「……!」
「俺、強くなる。きみを守れるぐらいに」
決意したような彼の表情を前にして、私は頷くことぐらいしか出来なかった。




