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22話・憧れの公子さま



 それから数日後のこと。昼餐の間から出てくると廊下にディジーがいた。ウォルフリックに会いに来たのだろう。彼はディジーが半分血の繋がった妹だと明かしたが、彼女の方はどうなのだろう? 疑問だ。

今までの態度からしてウォルフリックを異性として好ましく思っていたように思えるけれど。


 ウォルフリックの許婚である私に対して、彼女は嫉妬をむき出しにしていたようにしか思えない。ウォルフリックは、ディジーは自分達が半分血の繋がった兄妹だと言うことを忘れているとも言っていた。

その彼女は私と目が合い気まずそうな顔を向けてきた。



「ウォルフリックさまならまだ、中におられますよ」



 そう言って彼女の脇を通り過ぎようとした時だった。呼び止められた。



「あの、ちょっと待って」


「何でしょう?」



 今までの太々しい態度は消えていた。神妙な面持ちでこちらを見る彼女が別人のように思えた。



「あれから体調の方は如何ですか?」


「もう大丈夫。あの時、お医者様を呼んでくれてありがとう。助かった」



 彼女に何か言われる前にと、体調を気遣う声をかければ、お礼の言葉が返って来た。何か悪い物でも食べたのだろうか? 彼女の異変が信じられない。



「それは良かったです。皆さま、心配しておられましたから。まだ中にウォルフリックさまがおられますよ。では私はこれで──」


「別にあたしはリックに会いに来たんじゃない。あたし、もう二人の邪魔はしないから。じゃあね」



 あれだけウォルフリックに執着を見せていた彼女の、掌をかえしたような態度に驚いた。今まで散々、私達の間に割り込んできていたというのに。どんな心境の変化だろう?

今のウォルフリックに、特別な想いを抱いていない私から見れば、彼を慕う彼女の想いは重く、切なくも一途で純粋に思えた。


 私とウォルフリックの仲は、政略結婚前提のものだ。恋愛感情抜きで結婚することは確定されている仲。一生を共にするのならば、お互いを嫌い合うよりはより良い仲を築いていけたらと望んでいる。

幸い、彼もそう願っているようだ。真夏の日差しのような、じりじりと身を焦がすような恋仲にはなれなくとも、陽だまりのような穏やかな家庭を築く、パートナーにはなれそうな気がする。


 幼い頃のウォルのことは好きだった。でもそれは今思えば、異性として好きというよりは、憧れの気持ちが大きかったような気がする。

 同い年なのに、ウォルはしっかりしていて、あの頃のバレリーにとって頼りがいのある公子さまでもあったから。


 もしかしたらあの頃のウォルは、私の期待に応えるべく理想の公子さまを演じていたのかも知れない。



「疲れてしまうわよね?」



 誰に言うとでもなく零れた呟きは、誰に拾われることもなく静かな廊下に落ちた。





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