21話・ディジーという存在
「ヘッセン侯爵令嬢。少し良いかしら?」
ウォルフリックの元を辞した後、厄介な人に捕まった。赤毛の夫人ネルケだ。断っても良かったが、私が昼餐の間から出てくるのを、待っていたかのような態度が気になった。
彼女に頷き付いていくと、案内されたのは客間でディジーに宛がわれている部屋のようだ。行き慣れた様子から宮殿に夫人が通っていたのは、ディジーと会っていたのだと思われた。応接間に入った途端、詰られた。
「あなた、何を言ったの? ディジーは寝室に籠もったまま出て来ないのよ」
「私は何も。ディジーさまは、ウォルフリックさまから今までの態度を改めるようにと注意を受けただけです」
「今までの態度?」
心底ディジーを心配する様子の夫人に、その気持ちをもう少しだけ息子のリヒモンドに、傾ける気はなかったのかと言いたくなる。
「それよりもネルケさまは、今までディジーさまのもとへ通われていたのですか?」
「そうよ。何か文句でもある?」
夫人の物言いや態度に、ディジーと似通ったものを感じる。さすがは……と、言ったところか。
「いいえ。夫人の態度はまるで娘を心配している母親のようですね」
「何を言い出すのかと思えば……。馬鹿にしないで頂戴」
「夫人のことを馬鹿にしたつもりはありません。ディジーさまは大公さまと血が繋がっているのですよね? ネルケさま」
「な……! あなた、分かって言っているの?」
「何をですか? ディジーさまがあなたさまと髪や瞳の色だけではなく、顔立ちまで似ていると言うことですか?」
私の追及に、ネルケ夫人は唇を噛んだ。そこへ隣の寝室へ繋がるドアが開いてディジーが顔を出した。
「ああ。ディジー、心配したのよ」
「あたしが大公の娘……! じゃあ、リックとは──」
駆け寄る夫人は、母親のようだ。ディジーは青ざめていた。私達の話が聞かれていたようだ。
「そんな……」
そう言いつつ、その場で頭を抱え込んだ彼女は呻いた。
「痛い……、痛い。頭が割れるように痛い……」
「ディジー。ディジー、大丈夫?」
「私は医師を連れて来ます。ネルケさまは彼女をベッドに」
「わ、分かったわ。ディジー、歩ける?」
ディジーはフラフラと立ち上がり、夫人の手を掴んだ。それを見届けて私は医師の元へ急いだ。しばらくして医師を連れて戻ると、ディジーはベッドの上で半身を起こしていた。その側に夫人が付き添っている。医師をその場に残し、私は夫人と隣の応接間に出た。
「余計なことを言わないで頂戴。ディジーの具合が悪くなったのはあなたのせいよ」
医師がきて安心したのか、夫人が批難してくる。私は考え事をしていて、彼女の話を聞いてなかった。
そこへウォルフリックが飛び込んできた。彼は私を見て聞いてくる。
「ディジー、ディジーは?」
「いま、医師に診て頂いております」
「そうか」
彼の後を追うように大叔母も姿を見せ、事情を聞かれて説明をしていると、いつの間にかネルケ夫人の姿は消えていた。
「皆さまおいででしたか」
「ディジーの具合は?」
医師が寝室から出てくると、私やウォルフリック、大叔母を見て驚きはしたものの、ウォルフリックに問われて大丈夫だと言った。
「大丈夫ですよ。意識はハッキリしておられます。お嬢さまの体にも異常は感じられません」
「良かった……」
そう言って安心したウォルフリックの側で、大叔母は安堵のため息を漏らしていた。彼女のことを心配していたようだ。その態度からしてディジーは、大叔母の心を揺るがすような存在なのだと知れた。




