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20話・ウォルフリックの変化



 翌日。昼餐の場に赴くと、ウォルフリックとディジーが待っていた。彼女は当然の顔をして、彼の隣にいた。それを腹立たしく思うも、リヒモンドが告げた言葉が気になって、それどころではなかった。



「遅れました」


「昨日は倒れたと聞いた。体の方は大丈夫かい?」


「ええ。大丈夫です。お騒がせ致しました」



 ウォルフリックは許婚らしく、気遣いの言葉をかけてくる。でもどうしてそれを知っているのかと訝ると、事情を教えてくれた。



「昨日、ヘッセン侯爵から収支決算報告書の手ほどきを受けていてね。そこへ侍女が駆け込んできた」



 父は財務大臣をしている。次期大公として学ぶべきことを父から教わっていたのだと彼は言った。そこへ侍女が知らせにきたらしい。



「あたしのせいじゃないわよ。何もしていないもの」



 ウォルフリックの言葉に反応したように、ディジーが口を挟む。ウォルフリックは顔を歪めた。



「……ディジー、これからは態度を改めて欲しい」


「どういう意味?」


「俺達は距離が近すぎた。周囲に誤解を与えた」



 そこで私は異変を感じた。二人は隣り合って椅子に座ってはいたが、ウォルフリックは一度もディジーを見ることはなかった。その彼の横顔をディジーが見つめる。



「何で。あたしが? この人が勝手に倒れただけでしょう?」


「周りはそうは思わない。俺達のせいだ。済まなかったバレリー」



 ウォルフリックは悪かったと、自分の非を認め、私に頭を下げてきた。



「止めてよ。リック。あんたは悪くない。大体大袈裟なのよ。ひ弱なこの人が倒れただけで、あたしのせいにされるなんて。堪ったものじゃないわ」



 そう言いつつ、彼の腕を引いたディジーの手を彼は払い落とした。



「……!」


「ディジー。ここでの生活に合わせられないようなら、母さん達の元へ戻れ」


「リック」



 ウォルフリックは、ディジーを突き放した。それが彼女には信じられないようだ。あ然としていた。



「ディジー、おかしいぞ。ここに来る前は、心優しい良い子だったじゃないか。俺の可愛い妹はどこに行ってしまった?」


「妹……?」


「そうだろう? それなのに何がきみをそう変えてしまった? 兄ちゃんは悲しいぞ」



 途端、ディジーは椅子から立ち上がった。



「あたしはリックのこと……!」


「ディジー」



 何かを言いかけた彼女は口を噤み、部屋から飛び出した。その時、眦に光るものを見た気がした。



「ウォルフリックさま。ディジーさまの後を追われなくて良いのですか?」


「構わないよ。今は感情的になっているから少し、ディジーとは距離を置いた方が良いと思う」



 彼はディジーに見切りをつけたように思えた。でも二人の仲の良さは、散々見せ付けられてきたので知っている。彼の変わりようが信じられなかった。



「あなた方は恋人同士だったのではないですか?」


「違うよ。彼女とは兄妹だよ」


「あなた方が兄妹?」



 にわかには信じられない真相が告げられた。彼らは恋人同士ではなく血の繋がった兄妹?



「ディジーはそのことを忘れてしまっているみたいだけどね」


「あの、兄妹って、じゃあ……」


「とは言っても半分だけ血が繋がっている。俺達は父親を同じくする腹違いの兄妹。そのことは婆ちゃんも知っている」



 彼の言う婆ちゃんとは、ベアトリスさまのこと。だからディジーは、大公家所縁の墓場への出入りをベアトリスさまから許されたのかと納得した。



「俺はディジーとは何でもないよ。許婚を蔑ろにする気もない。顔合わせの時にも言ったけど、きみとは少しずつ距離を縮めていけたらと思っている」


「あなたはウォルフリックさまなのですよね?」



 私は今一度、確かめてみたくなった。



「そうだよ。俺が正真正銘ウォルフリック。それ以外でもそれ以下でもない」



 その言葉は自信に満ちていて、揺るぎが全く感じられなかった。



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