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17話・リヒモンドに会った日1


 その日、いつものように東屋に通された私は、侍女が許婚を連れてくるのを待っていた。当時、6歳だった私は毎日のように宮殿に通っていた。幼い許婚同士の交流を、大人達は微笑ましく見守ってくれていたように思う。


 普段ならすぐに姿を見せるはずなのに、その日に限ってなかなか現れなかった。だんだん心配になってきて辺りを捜してみると裏庭にいた。許婚は12歳くらいの少年と一緒にいた。少年は庭師が被っているような帽子を被っていて、顔はよく分からない。一体、誰なのだろう? 二人の親しそうな様子が気になって声をかけた。



「ウォル!」


「やあ、バレリー」



 その頃、私は許婚を「ウォル」と、愛称で呼んでいた。ウォルにはもう一つの名前があったけど、それは公には口に出来ない名前だった。


 ウォルに声をかけた途端、帽子を被っていた少年は踵を返し、向こうへ行ってしまった。その少年の背を、追い掛けるようにウォルは見つめる。こんな様子のウォルは見たこともなくて、一番仲良しの相手であるはずの私は軽く嫉妬を覚えた。



「いまのひとはだれ?」


「おじうえだよ」


「あのおにいさんが? ウォルのおじさま?」



 ウォルは警戒なく教えてくれた。すぐには誰のことか分からなかった私は、ある人のことを思い出した。2年前、先代の大公さまが亡くなられた時に、母親だったネルケ夫人に置き去りにされた少年。今はベアトリスさまが引き取って、宮殿で養育していると聞いていた。



「リヒモンドさま?」


「そうだよ。リヒモンドおじうえ」


「ウォルはなかがいいの?」


「うん。リヒモンドおじうえとは、しょくじのときにあうから」



 リヒモンドは、大公一家と共に宮殿で暮らしているのだ。食事の場で顔を合わせていてもおかしくはない。



「リヒモンドさまは、じきたいこうのざを、ウォルときそっているのでしょう?」



 周囲の大人達がそう言っていたと言えば、ウォルは顔を曇らせた。現大公には「ウォルフリック」という後継者がいるが、腹違いの「リヒモンド」という弟がいる。リヒモンドの産みの母は宮殿では評判が悪いが、息子の方は優秀だと聞いている。その為、ベアトリスさまが目をかけているそうで、ウォルフリックの立場は微妙なことになってきていると、噂されていたような気がする。


 その相手と仲良くしているのは、あまり良くないのではないかと私は思っていた。ヘッセン家ではネルケ夫人を良く思うものはいない。そのこともあり自然とその息子であるリヒモンドも良く思われていなかった。



「べつにきそっているわけじゃないよ」


「おぼえがよいリヒモンドさまは、たいこうをねらっているかもしれないって、きいたよ。あのあくじょのこだからって。わるいひとだったらどうするの?」



 この時の私は、仲良しのウォルをリヒモンドに奪われたくない思いに駆られていた。リヒモンドは悪女の息子だから、近づいてはいけないと両親に言われていたのもある。







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