141-145
141塔
蟻が塔を建てている
名付けて
ありがとう
人の足に踏み潰されてしまった
人通りのところに建てた蟻が悪い
野原に蟻が再び塔を建てている
名付けて
ありがとう
猪に突進されて破壊されてしまった。
獣道に建てた蟻が悪い
何も無い空間で蟻が塔を建てている
名付けて
ありがとう
塔といっても何があるわけでもない
誰も知らない
わからない
ありがとう
142貴族の踊り
踊ろう
音のない世界で
踊り明かそう
何かが消えた空間で
踊ろう
踊りをいまいち知らないけれど
踊り明かそう
灯火の消えた舞台で
踊ろう踊ろう
君の手をとって
明るく軽やかに
繰り返すことのない
楽しみが終わらないように
143観測者
観測者の目が動いている
右に左に
上に下に
真ん中に
足元は疎かに
黄色い足跡が点々と零れ
小雨が野良犬を呼び寄せる
暗い昼間
息も絶え絶えに
少年は少女へと変貌する
観測者に見られている
心の内側で閉じこもる引きこもり
菩薩が落としたのは糸ではなく
深い悲しみ
144夏の嵐
晴れ渡る夏の
暑さの明るい
嵐の中で
透明な雨が殴りつける
無痛
ビニール傘は不用で
日傘が必要で
コウモリ傘は電車に忘れ去られ
笠地蔵はいい話だが嘘話
傘を閉じたり開いたりして
心の扉を開いたり閉じたりする
記憶の中の飛行機が
見上げれば飛んでいて
飛行機雲を作っている
夏の嵐
太陽は威張っている
145ジョーカー
仮りそめの季節と
本物の季節が
交互にやってきて
トランプの裏表のように
くるくる回るのはジョーカー
何でもできるが
何にもできない
ジョーカーになった者は
時を止めたように
時を動かす
負けることと
勝つことは
等価値で
無価値で
魚の骨と馬の骨