大罪編
ふと思う事がある。
正義とは何か。
正しいとは何か。
正しい事が正義なのか。
ふと思うことがある。
金が全てなのか。
心が大切なのか。
金は心は大切どちらが正しいか。
その問いかけにハッキリとYESこちらだと応えられる者は、おそらく金派閥だろう。
心を選び提唱し続けるものは、一部の重鎮で有り、でも、後者を選ぶものは、右往左往とする自らの人生に、明確な答えなんてものはないと、それが答えだと言う者が多いだろう。
でも、一つ言いたいことは。
正義は美しい。
悪は汚らしい。
自分はどちらの人間でいたいかと聞かれれば、間違いなく、美しい正義と応えるだろう。
でも、自分の人生を振りかえったとき。
いや、振り返らずには、いられなかった時。
自分は、美しい生き方をしていたのだろうか。
自分は、正しい生き方をしていたのだろうか。
その問いかけは、鋭い刃物で刺されたかのように、胸を痛く締め付けるものであったりで。
一度壊れた者は、もう戻らない。
どうすれば、自分は、正義で、美しくて、綺麗で、正しくいられるのだろう。
そうだ。
自分は、許されない罪を犯したんだ。
それらの罪を償うことこそが、美しく、正義で有り続けることじゃないのか。
壊れた心は、壊れた心のまま。
その罰を受ける自らへの心の報復こそが。
罪滅ぼしなんじゃないかって。
自分が埼玉で、実家に帰る時。
ふと、傷ついた心が。
この罰を受けようって。
そう思った。
どんな酷い事をしたんだろう。
思い出して見ろよ。
学生時代。
大好きだった楽しかった麻雀。
友達とワイワイ、夜の部屋の寮生活で。
何度も何度もじゃらじゃら遊んだ。
初めは、ジュース一本とかの可愛い賭けごとの始まりで。
次第に、金賭け麻雀になっていって。
どんどんその賭け金も上がっていって。
お金が欲しい。
麻雀で勝って友達をカモろう。
そんな汚い悪に加担していた自分がいた。
A氏の発案で。
麻雀の通しを決めた。
通しとは、身振りや手ぶりや言動などで、相手に分からない形で、仲間に合図を送り、都合よく場を進行させるもののことである。
今でも覚えている。
悪に加担していた自分。
ここで、素直に吐露しよう。
当時、それは、高度なことで、勝てばカッコよくて、漫画の主人公みたいだって。
そう思っていた勘違いな自分がいた。
それは、今でも許してほしいと切に思っている。
麻雀で勝つために。
通しを決めた。
初めは、物凄くくだらない通しで。
坂東という友達がいて。
突然脈絡なく坂東の話をしたら、テンパイ。
あ、きたリーチ! と言ったらマンズとかでも。
やった、きたリーチ! と言ったらソーズで。
何も、言わずにリーチ! と言ったらピンズだとかで。
そんなくだらない鼻くそみたいな通しをやっていた。
でも、どんどん通しも、雑になってきて。
最終的には、持っていたガラケーで、何待ちだとか。
何を鳴かせてとか。
何を切ってだとか。
携帯電話のメールでお互いの意思疎通をA氏と測り、それらを伝え合い牌切るというものだった。
汚いイカサマ行為極まりない悪行。
今にして思えば。
そんなイカサマ行為も。
長くは続かなかった。
勿論結果は、連戦連勝。
俺もA氏も勝ちを積み上げていったが。
それは、本当の実力ではなく。
間違ったイカサマによる結果でしかなく。
麻雀のレートも麻雀仲間の間で、またたくまに上がっていき。
月に数万円動くくらいの戦いをしていた。
怖そうなお兄ちゃんたちとも戦った。
怖そうと言っても、20歳までの同じ高専生であったが。
それらに関わっていた先輩たちのほとんどは、麻雀、酒、タバコ、ギャンブルなどで、遊んでばかりで。
勉学に全く努めていなかったため、留年する者がほとんどであった。
自分もその取り巻きの中に、身を投じていて。
毎年、留年の危機だったが。
俺にとって、最も冷や汗をかいた危機があった。
それは。
A氏とのイカサマが周囲にバレたのである。
今にして思えば、バレて当然のスカスカのポンコツコンビ打ちであったと思うが。
俺は、いつもの麻雀仲間が集まる、下宿で、麻雀を打ち、そこで雑魚寝して、一夜を過ごした。
翌日。
自分は、ある失策を犯した。
そう。
学校での登校時間。
いつもの教室に向かう途中で気づいた。
携帯電話がない。
どこだ。
そうか。
友達の下宿に忘れたんだ。
自分は、初めは何にも思わなかった。
せいぜい、ガラケーの中に入っている、エッチな画像や、エッチな動画が周囲の麻雀仲間に見られたんじゃないかって。
そう心配して恥ずかしい思いになったが。
すぐさま、考えを改め。
あ、メールでのやり取り。
イカサマ。
あれを見られたら。
イカサマがバレてしまう。
そこで、とても冷や汗をかいた。
そして、授業が終わり、放課後。
下宿へと向かい、携帯を探すがない。
いつもの麻雀仲間の友達の様子が少しおかしい。
携帯のことはあえて言わず、いつもどおり麻雀を打っていると。
4年生の怖そうな金髪の先輩――高道先輩が部屋に入ってきた。
ぼそっと一言言った。
「今日は、サマ使ってねぇのか」
なんのことだろうというリアクションをとらなければいけないのは、当然であったかもしれないが、俺もA氏も知らぬふりをした。
A氏は答える。
「なんのことっすか?」
高道先輩は、間髪いれずに、動かぬ証拠を突き付けてくる。
「これ」
ただ、俺の携帯電話をみせて来て。
その内容がどうだなんて会話はなされることなく。
もう勘弁したかのように。
A氏が。
「すいません……」
そう一言言った。
その時の自分は、もう世界が終わったかのような気持ちだった。
自分はとんでもない過ちをしてしまった。
バレたことが問題なのではない。
そんな行為に及んだことが問題なのだ。
怖い。
どうしよう。
この先どうなるのだろう。
怖そうな金髪の高道先輩が言う。
「ここの取り決めでは、前から、サマつかったやつは5万オールで(5万円を関わったもの対局者全員に支払う)手を打つという取り決めだった」
A氏は答える。
「それは、知りませんでした」
高道先輩は言う。
「今回は、まぁ、1万オールで許してやるよ。俺は、タバコワンカートン買ってくれれば別にいい」
俺も、A氏も、何も言うことなく、というより、何も言えずそれで納得した。
少し胸を撫で下ろす気持ちがなかったかというとそれは嘘になるかもしれない。
金で解決。
それが結局一般的なものだ。
高道先輩は続けて言う。
「もし、1万オール払わなかったら、お前ら、囲むから」
素直に怖いと思った。
囲んでボコボコにされるのか。
俺。
でも、金で解決できるなら。
奨学金を貰っていて、お金がなくなってきたら両親に報告し、振り込んで貰うというのが当時の俺の生活スタイルだった。
結局1万円を数人に支払い。
もう何人に1万円を払ったかはわからないが。
自分らが不当に積み上げてきた、不当な勝ち額は、この1万オールの数万円で、一瞬にして消え、マイナスになった。
お金を無事支払ったため、おっかない兄ちゃん達に囲まれることは、なんとか回避できた。
俺は思った。
もうイカサマなんてしない。
こりごりだ。
自分はそう心に強く誓い、結局麻雀を続けることにした。
しかし、数年後、再び自分は大罪を犯すことになるなんて、この時は、全く思いもしていなかっただろう。