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空想の演者   作者: 木小丸
4/5

図書室

「ただいまー」

「おかえり~今日は遅かったじゃない、友達?」

「いや、ちょっとした用事」

「ふーんそっか。ご飯冷蔵庫にあるからチンして美花と食べといて、じゃあ母さん少し寝るわね」

「ほいよ、お休み」


母は看護師で三交代勤務、今日は夜勤なので出勤ギリギリまで仮眠を取るのが母のルーティーンだ。


「美花ーご飯食べるよ」

「はーい」


母が夜勤の日はこうして妹と二人でご飯を食べる

とことこと歩いてきた美花は、二人分のお皿とお箸を机に並べて、ダイニングチェアに腰を掛ける


「お兄…これなに?」


美花は机に置いてたチラシを取って聞いてきた


「部活のチラシ」

「ぶかつって?」

「小学校でいうクラブ活動みたいなもの」

「えんげきぶ?ってなにするの」

「演劇をするんだよ」

「ぐたいてきには?」

「…俺も分からん」

「そうなんだ…」


なぜか落ち込む妹、この年頃はなんでも知識を吸収したがるのかも知れないな…

そういえば部長さんがこれに色々書いてるって言ってたし後で見てみるか。

食事を終えて片付けを済ましたら自由時間。好きなゲーム実況を見ながらアイスを食べるという至高の一服が日課。

妹は隣で宿題をしていて難しいとこは教えるつもりだが、すべての問題を自力で解答している。将来有望だなぁ…。

一年前までは夜中のトイレで何度も起こされるのが当たり前だったが、最近は一人でトイレに行くようになった。

ほんと子供の成長速度は恐ろしい…いつか見下される時が来ることを覚悟している。

黙々と算数ドリルをする妹の隣で、今日もらったチラシを見ることにした。


「へー…こんなに役割があるのか…」


演劇部は演者だけで構成されている訳ではなかった。一宮高校演劇部は、演者・演出・舞台監督・舞台スタッフ・音響・照明・製作。もっと細かく役割が分かれている高校もあり、何か一つでも欠けていたら演劇は成立しない。

舞台に立ちたくない人でも、それぞれの役割で演劇の大きな柱として活躍できる。演劇部は全員が輝ける"居場所"。

稽古場所は、講堂と裏庭広場。部室は二号館一階東扉前。

興味があれば、顧問の橋本先生まで…

読み終えた俺は、この内容を簡潔に美花に説明した。


「お兄はえんげきするの?」

「んーん、俺はいいかな」

「なんで?」

「なんでって…お兄ちゃんは忙しいんだよ」

「うそ…ひましてる」

「自由時間も必要なのだよ」

「さいきんバスケットしてない…」

「それは…もう辞めたって言っただろ」

「お兄のえんげきみてみたい…!」

「はいはい、もー寝よーな」


美花の頭をわしゃわしゃさせて、部屋に入るのを見送った。

あそこまで食い下がってきたのは珍しい。

演劇部か………正直チラシを見て少し面白そうだと思った。だけど…美花には悪いが、"俺なんか"が居ていい場所じゃないと思う。空っぽの中身なのにまた蓋を閉めたような感覚…。大丈夫、今のままがベストなんだ。

天井を見上げ脱力し、眠くないのに目を閉じた…



あれから一週間が立ち、今日もギリギリで登校。いつも通り授業を受けた放課後、ずっと興味のあった場所へ行ってみる。


「ここか…!」


着いたのは図書室。子供のときから推理小説を読むのが好きで、中学の時も図書室に通っていた。ここ一宮高校の図書室は、公立高校の中では上位に入るほど大量の本が置かれている。許可さえ取れば何冊でも借りれるため、まだ発掘できていない好みの小説を見つける絶好のチャンスだ。

とりあえずパッと見気になった小説を5冊取り、司書室にいる人に声をかけ簡単に借りることができた。

時間に余裕があった俺は図書室で、一冊目の序盤だけ読んで帰ることにした。読み始めて数分経過した時、急に後ろから声が聞こえてくる―――


「ずいぶん集中してるね…温かいお茶はいかがかな?」

「…どうも」


湯気立つ茶碗を持ち隣に来た老教師。対面に座り会話する。


「私は図書室の管理をしている者でね…こうして熟読している生徒たちにお茶やお菓子を配るのが好きなんだ」

「そうなんですね」

「ところで君、部活は?」

「入ってないです」

「そうなのか………君、まだ時間はあるかい?」

「ありますけど…なにか?」

「実は君に手伝ってほしいことがあるんだが、どうかな?」

「手伝いですか?」

「あぁ、老い先短い年寄りの頼みを聞くと思って…」


断りにくい言い方してくるな…まぁ小説の続きは家でも読めるしな。


「分かりました。それで俺は何を?本の整理とかですか?」

「整理は図書委員の務めだよ。私が頼みたいことはね…少し場所を移動しようか」


荷物を持ち図書室を出て、老教師に着いていく。

力仕事の類いだろうか…なら面倒だなぁ、そう言えば時間ってどのくらいかかるか聞いてなかった…

今さら帰るとはさすがに言えずに歩いていると、とある一室の前で老教師は止まった。


「着いたよ。さあ中に入って!」

「はぁ…あのここって…」

「答えはこの扉の先にありますよ」

「………」


扉を開けると、賑やかな話し声が聞こえてきた。

老教師が中にいる人たちに元気よく挨拶する―――


「おはよう!皆揃ってるかー!?」

「「おはようございます!橋本先生!今からミーティングするところです!」」

「よーしお前ら~!一年生一人確保したぞー!!!」

「うお~!さすが先生ー!」


高く拳と声を上げる老教師。さっきまでの弱々しい態度とは真逆の姿。その周りを囲む見覚えある上級生たち。混沌とした空間に頭が追い付かず、口を空け呆然と立ち尽くす俺。来る途中、違和感はあった。向かってる方向があのチラシに書かれていた場所と同じ…つまりここは――――


「「ようこそ!演劇部へ!」」


本編スタートォォォ!!!

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