講堂
失敗した…
思ってたことをストレートに発言してしまった…
俺はただ、人前で演技をすることに臆さないのか、緊張とかしないのか、そんな感じのことを言うつもりだったのになぁ…
バカにしてると勘違いをされても仕方がない。
「名前聞いてもいいかな?」
男前の部長さんから尋ねられる。
怒ってはなさそうだけど、言いたくないなぁ
「林道です」
「林道君か…質問ありがとう。代表して答えると、キャストは舞台に立つことに対して羞恥心の欠片もないよ」
「そうですよね、変なこと言って申し訳ないです」
「変なことじゃないよ、僕だって初めの舞台は恥ずかしさと緊張で体が石になってたからね」
「そうなんですか、意外です」
「そうかな?橋本先生に喋る石像ってダメ出し受けて泣いたこともあるよ」
部長さんの話で雰囲気が明るくなりクスクスと笑い声が聞こえてきた。結果オーライか…ありがとう部長さん。
「だけど今は自信を持って舞台に立ててる。そこに至るまでには相当の稽古が必要だけどね。それも含めて僕たちは演劇を楽しんでいるんだ」
楽しむことで雑念を振り払ってるみたいだ。
よっぽど演劇が好きなんだろうなぁ…
「そうだったんですね、話してくれてありがとうございます。でも自分にはハードルが高そうです」
「そうかな?僕の見立てでは先生が気に入りそうだと思ったけどね!」
さぞ物好きな教師なのだろう。
自分の番が終わり雰囲気が変わったからか、次々とまともな質疑応答が交わされていった。
そして、男連中が待っていた瞬間が訪れる。
緊張してるのか、顔を下げて少し震えてる音無さん。
数秒の沈黙の後、部長さんが口を開く。
「なんでも聞いていいよ~思い付かなかったら質問しなくても構わないからね!」
そわそわし出した演劇部員と男連中が見守る中、立ち上がった音無理乃は頬を赤く染め、勢いのまま発声する
「ファンです!!!!!!!!!」
反響する透き通った大声、そのセリフの意味が重なり再び講堂の空気が静まりかえった。
音無さんが放った言葉の意味に絶望する男連中、ワクワクしている演劇部員たち、彼女のあまりの熱量に圧倒される俺。
「そっかそっか!ありがとう!すごく嬉しいよ!」
「先輩方のお芝居…とても感動しました!」
「それを聞けて部員の僕らは大満足だよ。またいつでも見学においで、歓迎するよ!」
「ありがとうございます!」
音無さんと部長の語らいが終わった後、なにかを諦めたように男連中は解散していった。音無さんは片付けまで手伝うと言って講堂に残るそうだ。
俺は男連中の帰る流れに合わせて講堂を出ようとした時ー
「あ!待って林道君!」
部長さんが俺を引き留めた。
「先輩?どうしました?」
「名前言ってなかったね、僕は春名優斗、一応部長ってことになってる」
「春名先輩…それで俺になにか?」
「これ!演劇部のチラシなんだけど、持っててくれないかな?」
「チラシですか?」
「うん!演劇部について気になりそうなこと書いてるからまた読んでみて!気が向いたらいつでも来ていいからね!」
チラシを受け取り、手を振る先輩に一礼して俺は講堂を出た。思ったより長居してたようで、校門を出る頃には夕焼けの空だった。
「優斗せんぱーい、あの子と何話してたんですか~?」
「ひなちゃん、ちょっと勧誘してきた」
「入ってくれそうな感じでした?」
「どうだろうね」
「あの子のこと気になるんですか?」
「うん、直感だけど伸びると思ったんだよね彼」
「去年の私たちにはそんなこと言わなかったクセに~」
「そうだったかな?内心ではちゃんと思ってたさ」
「ほんとですか~?」
「そこの二人~談笑してないで働けー!バラシするよー!」
舞台監督の注意を受け、舞台装置のバラシに取りかかる。
「今年はどんな子たちが入るかな~」
春名優斗は手足を動かしながら、独り言を呟いた。