表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奇々怪界  作者: あぬ・万朶
4/5

4護衛


「貴女にはしばらくの間、ここに住んで頂きます」


そう言われて深禄(みろく)がエラに連れて来られたのは、(おごそ)かな和の空気が漂う、大きなお屋敷だった。


屋根は瓦造りで、日本庭園…はなかったが、木造のどこか懐かしい感じのする建物だった。


エラとマスターから話を聞いた後、深禄(みろく)は色々と精密検査のようなものを受けた。


検査の内容は前にいた世界と同じような医療だったが、施設や器具、検査を行う人々からは深禄(みろく)の世界とは異なる不思議な雰囲気が漂っていた。


どれもシンプルなデザインで、最先端な雰囲気。


気を張っていたからそう感じたのだろうか。


一方で、目の前の屋敷はあのビルとは対照的だ。


「この屋敷には他にも住んでいる人がいます。そして、貴女がここで暮らす間に護衛にあたるのが、『降閾(こういき)(まこと)』。貴女が最初に出会ったあの男です」


「な、なるほど…」


エラに紹介されて屋敷の横の庭を訪ねる。


そこからは表側から見た厳粛な屋敷の空気とは違い、もっと殺気だったような、厳しい空気が流れていた。


バシッ!ビシッと何かがぶつかり合うような音が鳴り響く。


深禄(みろく)は恐る恐るデイの背からそこを覗いた


(まこと)さん。連れてきました」


その奥には何やら武術の訓練らしきことをしている少年少女がいた。


そして、「降閾亮(こういきまこと)」という名のその男。


彼は縁側に悠々と腰掛けながらその訓練の様子を眺めていた。


「止め」


彼の言葉でその人々はピタッと動きを止めた。


「ったく。めんどくさいね。こう言う仕事ばっかり俺に押し付けてさ」


(容姿から(にじ)み出る上品さとはかけ離れた言動…)


姿勢を直しながら(まこと)というあの白髪と紅の瞳の青年は面倒くさそうに話す。


「そもそも種を蒔いたのは貴方ではないですか。それに、この任務に最適なのは貴方だけでしょう?」


「マスターもいるでしょう。一応」


あからさまに面倒臭そうな顔をしている。


(まこと)という青年はエラの上司であるはずだったが、深禄(みろく)の目にはエラの方が社会人としてかっこよく映った。


できる女性といった感じだ。


深禄(みろく)さん。この人はいい加減そうに見えて、結構真面目です。そして強い。見かけに騙されずに安心して過ごされて大丈夫ですからね」


「あ…はい…(思考が読まれている…)」


エラの率直な意見に(まこと)は、これまた面倒臭そうに「はぁ」とため息をつく。


降閾(こういき)(まこと)。ここでまー色々指導している。この屋敷の敷地内だったら好きに過ごしてもらって構わない。部屋は後でエラに案内してもらえ。以上」


「は、はぁ…神田(かんだ)深禄(みろく)と申します。よろしくお願い致します」


お互いに随分と短い自己紹介だった。




*  *  *




「ここが深禄(みろく)さんのお部屋です。困ったことがあれば屋敷内にある固定電話か、このスマホで連絡してください。私と(まこと)さん、マスターの連絡先はスマホに既に入っています。その他にも必要そうな施設の番号は登録していますので、自由に使ってください」


エラはスーツのポケットからスマホを取り出し、深禄(みろく)に手渡す。


「また、困ったことがあればこの屋敷に住んでいる学生に聞いても良いでしょう。ここは彼らの学舎(まなびや)です。彼らと生活を共にしてもいいですし、お一人の方がよろしければこちらの部屋を中心に過ごされてください」


「外には出ない方が良いのでしょうか…?」


「そうですね。正直なところ、1週間程度はこの屋敷内で過ごしてほしいと言うのが本音です。まだ調査中のことが山積みですので、万全を期すと言う意味で」


エラの瞳が左上に揺れる。


その視線の先には特に何もなかったが、深禄(みろく)には何者かがいるようなそんな雰囲気を感じた。


「また、外出をする時は必ず(まこと)さんか私、(まこと)さんが許可した方と一緒に行動してください。貴方の護衛としてお供しますので」


「そうですか…なんか、申し訳ないです…」


深禄(みろく)の頭は自然と下がる。


深禄(みろく)自身に何も被がないとは言っても、突然のアクシデントのせいでずっと自分の護衛をしなくてはならないとは、流石にあの青年が面倒臭いと言うのにも同情するものだ。


「お気になさらないでください。貴女は被害者ですし、(まこと)さんは誰に対してもいつもああいう感じです」


(エラさんは優しい方なんだなぁ…最初は怖そうにも見えたけど、自己紹介をしてからは、ずっと口調も優しい…)


「頑張って慣れます…あの!」


「はい。なんでしょうか」


「あの、エラさんや(まこと)さん、あそこにいた方々も私のようにこの世界にやってきた…のですか?」


衣食住は保障され、護衛もしてくれるという。


それでもこの異世界にひとりぼっちというイレギュラー感から深禄(みろく)は寂しさを感じていた。


深禄(みろく)の質問に対して、エラは気持ちを察したようにより優しい口調で話した。


(まこと)さんについて詳しいことは存じておりませんが、この世界で有名な一家のご子息です。上司ですし、ああいう方ですからあまり立ち入った話は知らないのですけどね…。私は、そうですね。深禄(みろく)さんとは違う世界からですが、こちらに来ましたよ」


「そうなのですね。すみません。急に立ち入ったことを聞いてしまって」


申し訳ないと思う深禄(みろく)に対してエラは「大丈夫ですよ。同じ転移民仲間はいますからね」と優しく答えた。


深禄(みろく)が感じていた孤独が少し和らいだ。



*  *  *



深禄(みろく)はこれからこの日本風のお屋敷で過ごすことになる。


衣食住は保障されており、護衛がつく以外には自由はほぼ制限されていない。


自室も和室で、優しい緑の香りがする落ち着いた部屋に和風のベッド付き。


棚にはフリーサイズの服が数点用意されており、身一つの深禄(みろく)としては至れり尽くせりという感じだった。


この世界の金銭的な感覚がわからないこともあり、自立ができないことが直近の不安としてはあったが、ひとまずはなんとかなりそうだ。


これからどんな生活をすれば良いのだろうか。


守られると言っても何から、どうやって?


説明を受けた今でも深禄(みろく)にはわからないこと、理解できないことばかりであった。


(とにかくこの世界に順応するしかない…よね)


疑問や不安を横に置き、この世界で過ごすことに腹を(くく)った深禄(みろく)であった。




コロナにかかり、更新ができておりませんでしたが、治りましたので徐々に更新を再開していこうと思います。

皆様も、どうかお体を大切にしてください!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ