1奇怪な出会い
はじめまして。あぬ・万朶と申します。
本作品を手に取ってくださり(クリックしてくださり)、ありがとうございます。
まずは、この「奇々怪界」を完成させるのが今の目標です。
初めての小説投稿で至らぬ点も多々あるかと思いますが、読んでいただけると嬉しいです。
「なに…これ…?」
赤黒い砂塵が辺りで渦巻いている。
空気は熱く、重い。深禄はいつものように呼吸ができなかった。
彼女の目の前に広がる景色を一言で表すのならば、おそらく「戦場」が一番しっくりくるだろう。
しかし、戦場といえども、彼女の目の間にあったのは荒れ果てた世界のみで、そこには武器を持った兵士や騎馬隊と言ったような戦士たちの姿は一切なかった。
砂埃が大きく舞い、深禄の視界を奪う。
反響し合う爆発音と、地面の奥底から爆発の大きな振動が深禄の背骨まで響いていた。
「ふふふ…さすがの君もここで終わりだ」
深禄は突如後ろから聞こえてきた優美な男性の声に驚き、振り向いた。
悪戯な声の主はまるで僧侶のような格好をした、美男子。
戦場には相応しくないそのいでたちと、天使を彷彿とさせる金色の長髪はさながら荒野に降りたった神の遣いといった様で、深禄は少しばかりの違和感を抱きながらも本能的に率直な感想を抱いたのだった。
(めっちゃタイプ…)
しかし、そう夢見心地でいれたのも束の間、彼女の浮き足だった心には刹那に天罰が下った。
ドスッ
「っ!」
あまりの恐怖と未知の体験に深禄はその音の出所である下の方を向くことが出来なかった。
その男は明らかに彼女の腹部に自らの手を突っ込んだのだ。
感触とは違う。違和感とも少し異なる。しかし、深禄の腹部には確かに自分とは異なる存在があったのだ。
自分の目で確認しなくとも、それだけははっきりとわかった。
普通の人間ならばできる芸当ではない。
そもそも今いるこの世界が普通ではない。
(夢?なの…?)
「っ」
深禄は言葉が出なかった。痛みを感じているはずだが、頭には思考も感覚も何も上ってこない。
「これでヨシっと」
「っはっ!!」
その男は深禄の腹部から軽快にその手を抜き取る。
抜き取られた男の手には血液一滴ついていなかったが、深禄の腹部には確かにそこに何かがったという違和感が今も鈍く残っていた。
「っえ!?え?」
咄嗟に腹部を確認する。しかし、特に異常は見当たらなかった。
慌てる彼女をよそにその男は地面に跪き、飄々とした顔で叫ぶ。
「〜様!仕度が整いました!」
男が叫んだ先には相変わらず止む気配のない、あの大きな爆発音と砂煙の混沌。
『でかしたぞ』
渋い男の声が深禄の頭の奥底に響いた瞬間、ドッと煙は渦を巻いて彼女の方へ襲い掛かってきたのだった。
「へ…?(私、死ぬの…?)」
得体の知れないその煙の圧力に、深禄は思考と言葉が奪われた。
「クソっ待てっ!!」
どこからか、先程の男とは別の若い男の声が響いたが、その声は彼女の元へは届かなかった。
それほど、人の時の感覚では微塵な間隔に、この出来事は起きたのだ。
―コオッ!!!ー
得体の知れない禍々しい塊は深禄の中を通り抜けていった。
* * *
「…」
何が起こったのか深禄には見当もつかなかった。
ただ、ひたすら死への恐怖に耐えた一刻。しかし、それは何十分にも感じられ、過ぎ去った今はおかしいくらいに虚無を感じる。
少しの間唖然としていると、砂埃の中から人の影らしきものが見えてきた。
(まだ何かあるのだろうか…)
「いくら大切なご主人様のためとは言え、こういう横槍を入れてくるのはどうかと思うんだけどな?」
新たに現れたその声の主はこの戦場に似つかわしくない、爽やかな風を纏った青年だった。
暗い荒野の中での時折鮮やかな光を飛ばす白髪、紅に染まった瞳にはどこかに吸い込まれてしまいそうな強いエネルギーが感じられる。
「どんな言葉も受け止める所存…最優先事項は我が主の安寧ですから」
「そうは言ったってね…」
青年の口調からは余裕が見える。
金髪長髪僧侶もまたどこか余裕そうで、二人がやりとりしているこの小さな空間だけが、この荒野の殺伐とした空気から切り取られたようだった。
「貴方に何の罪もない、我々と無関係なこの娘を殺せるでしょうか。否、殺せませんね。なにせ…貴方はヒーローなのですから…」
金髪の男が不敵な笑みを浮かべる。
虚無に引きずられそうになる意識の中、深禄が微笑みに釣られてその男達の話に耳を傾けると、その内容はなんとも不穏なものであった。
(ん?なに?殺す?私を!?ん???)
聞き捨てならない単語に動揺が走る。
おそらく、いや、明らかにその娘というのはここにたった一人、深禄の他ならないのだから。
「どうかな…俺は意外と薄情者かもよ?」
「ふふふ。そうですか。では、私も早めに退散しないといけませんね。薄情な貴方が私にまで牙を向く前に…」
微妙な間合いを取りながら二人の男は互いに視線を逸らすことなく向き合っている。
(ん…?どういうこと?)
金髪の男は白髪の青年を一瞥し、いやらしそうにそう告げると、どういうカラクリなのか、そのままその場から跡形もなく消え去ってしまった。
「え?」
(ちょっと待って。これは夢だよね?やけにリアリティーがあるんですけど?)
金髪の男が白髪の青年に何かされた様子はない。
男は、最初からそこにいなかったかのように、跡形もなく消え去ってしまったのだ。
「クソっ。アイツ調子に乗りやがって…」
深禄はもう一度自分の腹部をさするが、特に異常はない。
どちらかというと今の状況やこの場所の方が異常だ。
青年は何やら考えた後、自身の白髪を雑に掻き乱した。
「とりあえず応急処置だけでもしないとな…」
そう呟くと、青年は深禄の方に向き合った。
いつの間にか辺りは静かになっており、爆発でできた曇天の隙間から時折光がさす。
その光がその青年のサラサラと風に流れる髪に落ちて、キラキラと小さな光を弾く。
まるで世界中が彼を祝福しているみたいだ。
そして、端正な顔立ち。
白い首筋から喉仏にかけてのラインはどこか色気すら感じさせられる。
(ちょっと…めちゃくちゃイケメン…さっきの人より断然タイプ…)
夢でも滅多にこんなことはない。
この異様なシチュエーションに対して、ついつい心の中では本音が漏れる。
夢見心地ではなく、夢だと自覚できている。夢の中に自分はいるのだと、そう理由をつけて今までの一切の不思議を脳内で片付けたからこそ出た、真の言葉である。
(ってそうじゃなくて…)
「あの…」
深禄がこの夢の世界の住人に、ひとまずこの状況について尋ねようとしたその時だった。
(え?)
体の軸が奪われ、自らの視界も紅の渦に吸い込まれていくように引き寄せられる。
彼女も予想していなかったことが起きた。
その青年はさらっと深禄の腰を抱き、
「んん!?」
彼女の唇を奪ったのであった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
ゆっくり更新になりますが、次回以降も読んでいただけると嬉しいです。