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4.眠りし乙女「——

断罪室

4.眠りし乙女「——


腕の痛みも少しだけ(おさま)ってきた、だがそんなことより罪悪感(かいかん)の余韻に浸り運転が(おろそ)かになっている。もの凄いスピードを出したかと思うと急にブレーキを踏んだりしていつ事故を起こしてもおかしく無い状況だった、だが幸か不幸か間一髪で事故は起きていない。時刻は夜中の三時、少しずつだが車も通り始める頃だ。アイラは一瞬車と衝突しそうになり今ここで停滞したら捕まって終わりだと思い運転に集中する事にした。そのまま一時間程運転を続け町の駅までやって来た、アイラは車を止め誰にもバレないよう自宅へと帰った。今日の昼は家に(ひそ)み夜神父が帰っているところを狙おうという算段だった。

とりあえず左肩に消毒をして包帯をした、どうやら奇跡的に肉しかない場所に当たったらしく弾は貫通したようだ。だが痛みは止まずジンジンとした痛みが襲ってくる。アイラはどうにか他の事を考え時を過ごそうとしていたがそれは叶う事は無かった、アイラは既に詰みの一歩手前だったのだ。

それは朝をやり過ごし昼食を取ろうとカップ麺の三分を待っている時だった、玄関の方から大きな物音がして誰かが家に入って来た事が分かった。アイラはフォークをすぐ出せる様に懐に入れ包丁を手に取ってリビングのドアの取って側に体を近付けドアが開いた瞬間に攻撃できる体制を取っていた、足音をよく聞くと三人はいるようだった。その三人はゆっくりとこちらに近付いて来る、そしてドアの前で立ち止まり詳細が聞き取れないほど小さな声で会話をした後ドアノブに手をかけゆっくりと扉を開けた。アイラは音も無くドアノブに触れている人物の胸部を刺した、そして馬乗りになり何度も抜き刺し動かなくなったその人物を見てみると警官服を来た初老の男性だった。そいつを見ると同時にもう二人も警官だと察知し顔を上げる、すると若い男女の警官が恐怖で震えながらへたり込んでいた。先手を打たれまいと包丁を男の警官に投げ見事に命中させた。男性警官はショックで気を失った、(じき)に出血多量で死ぬだろう。女性警官は更に震え涙を流し「命だけは」と懇願している、アイラはゆっくりと女性警官に近付き顔を近付けニヤッと笑い忍ばせていたフォークを一本だけ残しそれ以外を使って何箇所も刺し殺害した。

もうここにいてはバレてしまうと思い机の上に置いておいた非常用のゼリー飲料と若い男性警官に投げつけた包丁を引き抜き裏口から庭に出て逃走を図った、だがあの惨状を見てアイラがこの町にいる事がバレるのは時間の問題だ、出来るだけ早く誰にも見られない様に近くの山へと逃げ込んだ。こう言う時に田舎は便利だと思いながら息を整えようと座ろうとする、だが神はそれすらも許してはくれなかった。すぐ近くで足音がする、だがこの足音は野生動物の音ではなく紛れもない人間の物だと思い包丁片手に様子を伺う、近付いてきていたのはどうやらただの住民でおばさんだった。包丁を隠し会話を試みる


「どうしたんですか?こんな山に」


「それはこっちのセリフよぉ!アイラちゃんが走って山に入っていくもんだから心配になって…」


「そうだったんですか。でも大丈夫ですよ、ただ自然に触れたかっただけですから」


「そう…ならいいんだけどね。あ、後気をつけてね」


「…?」


「あなたを殺せば金が貰えるの」


そう言うとおばさんはピストルを取り出し構える間もなく発砲した。アイラはすぐに足を動かし避けようとしたがそうはいかなかった、左耳に命中し血がドクドクと流れ始めた。だがアイラは怯まずおばさんのすぐそこまで近付き力強く蹴る、すると斜面だった事も相待っておばさんは転げ落ちて行った。ひとまず脅威は跳ね除けたがここでもすぐにバレる、もこの町にはいられない、神父は諦めて遠い場所で暮らそうと遠回りをしながら駅まで向かう事にした。

少しずつ空は暗くなってきている、あの山から離れ早歩き程度の速さに変えて体力を温存しながら小腹が空いたのでゼリー飲料を飲んでいるアイラは至る所が血塗れだった。そんなアイラを見逃す者なんていない、発砲音がする。アイラはまたかと思いながら走り出す、後ろを振り返ると三人の警官が銃を構えている。正面から三人の警官には勝てないと思い全速力で銃弾を()(くぐ)りながら逃走を図った。

だが一発だけ脇腹に喰らってしまいもうヘトヘトになりながら()くことが出来た。時間は十六時、もうそろそろ駅に着かなくては暗闇から襲われる可能性もある。急いで足を進めようとしたがなにかが落ちていることに気付いた。よく見てみるとそれはスコップのようだ、そしてその横には何かの容器が捨ててあった。それを見ると同時にここは初めて死体を埋めた教会の裏山だと理科した。

死体を埋めた位置を見てみるとそこには穴があった、死体は掘り返されたのだろう。そう思い立ち止まっていると足音が聞こえる、音の方を見るとここに埋めたトーマスの母親がいた。母親はアイラを見て銃を握りしめたが銃口をアイラに向けること無くなんと銃を投げ捨てた。その行動にアイラは驚き何をして来るのかと構えていたが母親はアイラに向かって話し始める。


「何故あなたはノアを殺したんですか…」


そう聞く母親の目は(うる)み今にも泣き出してしまいそうだった、アイラは戦闘体制を崩さず答える。


「気になったからです。人を殺すのがどんな気持ちなのかを」


「じゃああの庭に埋めてあった二人もあなたがやったんですか?」


「…えぇ、私がやりました」


「そう…ですか。でも今ならやり直せます!だから一緒に…」


その言葉を聞くとアイラは戦闘体制を崩してゆっくりと母親に近づいて行く、母親は嬉しそうにアイラを迎え入れようとしたがアイラにそんな言葉は響いていなかった。アイラは母親を刺した、母親はもう声を殺して泣き、トーマスの名を呟きながら目を閉じた。アイラは捨てられた銃を手にし駅へと向かって歩き始めた。

そして十分ほど歩いたところでふと思う、この銃があれば簡単に神父を殺せるのではないかと。神父が死ぬ姿を想像すると背筋がゾクゾクする、この姿を実際に体験したいと思い立ち(きびす)を返し教会へと歩き始める。

再び十分程歩き母親が死んでいる場所までやって来た、正面には教会がある。まだ時間は十六時半、神父は教会内にいるだろう。ゆっくりと斜面を下り教会の前までくる、教会内からガソリンのような匂いがしたが気にせず入っていく事にした。中は普段通りの教会だ、だが神父の姿はなかった。外出しているのかと思い軽く探してみてもどこにもいない、ただ一つだけ気になる事があった。別の部屋からガソリンの様な匂いを掻き消すほどの良い香りがするのだ。何があるのか気になって恐る恐るその部屋に入ってみると小さな机の上にまだ熱々のステーキがあった。何故こんなものがあるのだろうと部屋を見て回るとなんと調理場に人の死体が転がっていた、その死体は体の一部の肉が欠けている。アイラは机にあるステーキが人肉だと知るやいなや机へと戻り貪り始めた、数分にしてステーキを平らげたがアイラはまだ足りないと思い人肉を焼こうとしたが一つの案を思いつく。生で食べたらどうなるのであろう、と。

心臓の鼓動が早くなる、ゆっくりと口に近づけ生肉を噛みちぎり咀嚼(そしゃく)する。だがアイラはそれを吐いてしまった、流石のアイラでも生肉は食べることが出来なかった。

息を切らし少し涙が出て来る、口の中の不快感を取り除こうとしている時だった。後方から二発の銃声がする、アイラは振り返ろうとしたがもう遅い。胸部に二発受けてしまった、あまりに急な出来事に脳が追いつかずただ困惑するだけだった。ただ撃たれた事を理解して誰が撃ったのかと振り返るとそこには神父が立っていた。


「君もこんなのになってしまったのか」


そう言いながらもう二発胸部に撃ち込む、アイラはもう痛みを感じなかった。ただこいつを殺す一心で立ち上がり包丁を握って突っ込む、だが神父は残りの二発を右肩と右足に撃ち込んだ。アイラは銃を握ることさえ出来なくなった、そして右足を撃たれたことで動く事も難しい状態になってしまった。

神父はリボルバーの弾を装填しながらアイラに近付くと二発頭に撃ち込む、アイラは動くどころか息すら出来なくなっていた。神父はそんなアイラの腕を掴み引きずり出す、ゆっくりゆっくりと歩く。目的地はそう、『断罪室』だ。そして断罪室の前までくるとポケットから取り出したライターを着火し投げ捨てた、すると教会中に()かれていたガソリンに燃え移り一瞬にして教会は火で燃え上がった。神父はアイラを断罪室に放り込み自分は最近までアイラがいた方の部屋に入った。


時刻は十七時、ある小さな町の教会が燃え上がった。その火は消防隊が到着し鎮火を試みても消えず朝まで燃え続けたと言う、そうして火の(むくろ)となった教会からは初老の神父と思われる焼死体が発見された。


その教会は一夜にして燃え尽きた。だが燃えている様を見に来た野次馬達が言うにはハッキリとこの言葉が聞こえたらしい。


「さぁ、罪を吐きなさい。なんせここは断罪室だ」


そして直後に教会が倒壊し声は途絶えたとの事だ。

ただこの町で起こった最悪な事件の犯人は未だ見つかっておらず今も捜索が続いているらしい


4.    ——ここは断罪室」


 断罪室.終

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