2.想い子
断罪室
2.想い子
人に対する想いとはそれぞれだ、ある人には好意を又は無関心だったり尊敬だったり軽蔑だったり様々だ。ある人はその人物に特別な念を抱いていたが一方は相手のことなんて考えずに自己中心的な持論ををぶつける、この条件が成り立っている時人は「恋」などと称し人生の目的はこの恋を得ることだと勘違いする。だが人は心の奥底で求めている、自己中な自分を解放しその全てを受け入れてもらう「愛」を。ただ愛というものはパズルの様なものなのだ、片方の想いだけをぶつけてもパズルは綺麗にハマらず完成しない。だが片方が自分の形を捻じ曲げ相手を受け入れる事によって「愛」というパズルは完成し達成感と幸福を得る、だがどうだ捻じ曲げるという事は元の形ではない、となると勿論限界がやってくるその限界がやってくると捻じ曲げたピースは次第に形を戻すために反発し今度は自分が受け入れてほしいと想う。そうして今まで「愛」と呼んでいたものは片想いの「恋」というものに進化を遂げる、そうして「愛」と「恋」は繰り返されるのだ。
目を覚ますと私は自宅の玄関で倒れる様に寝ていた、時計を確認すると丁度九時を指していた。飛び起きてシャワーを軽く浴びて身支度を整えて急いで教会へと向かった。教会には神父様といつもと同じ子供達がいた、ただ昨日と変わらず人数は三人だ。二人は私が埋めた、今の所誰にもバレていない様だしトーマスの親も来ていない、誰も私がやったとは思わないだろう。
「神父様…すいません」
「あぁ別に大丈夫だよ」
「祈りはしました?」
「いや、君が来るまで待っていた。」
「すいません…」
一人の子供が小さい声で呟く
「ねぇシスター…」
「ごめんね、ちょっとだけ待っててね」
そう言って子供の頭を撫でそのまま祈りを捧げた、終わってから再び子供達の所に出向いた。少年達は昨日より暗く何かに怯えている様にも見えた。
「それでどうしたの?」
「それが…トーマスまで…」
私は心当たりしか無かったが今はシスターだ、なんとか演技をして誤魔化そう。
「私も噂程度だけど聞いたわ、トーマス君までいなくなっちゃったって…」
子供達は私に何か知らないかと問いかけてきたが当然知ってると答えるわけにはいかない、私はあくまでも知らないフリをして話を合わせて乗り切った。子供達はその話が終わると落ち込みながらトボトボと帰っていった、子供達が帰っていくと神父様が話しかけてきた。内容は立て続けに子供が攫われているなんて不可解だ、などと言った。その話が終わると同時に教会に見たことのない一人の青年が入った来た、青年はスラッとしていて金髪碧眼で清潔感のある所謂イケメンだ。
「神父さん少しいいですか」
そう言うと神父様は青年の方に近づいていった、青年は懐から何か小包の様な物を渡してからごく普通の世間話を始めた。神父様も楽しそうに話をしている、しばらくすると青年はこちらをチラリと見てから私に声をかけてきた。
「初めまして、この町に引っ越してきたレオ・ブラウンと申します。」
そう言って笑顔を見せた、並みの女性ならこの笑顔だけでこの青年に落ちているだろう、昨日までの私だったら絶対に恋に落ちていた。だが私は昨日のあれを感じてからもう男なんてどうでも良くなってしまった、心にあるのはただ罪悪感という文字だけだ。それはそうと私は会釈をして少し会話をしてみた、彼は非常に話が上手く話していてすごく楽しかった。あっという間に時間は過ぎ日が沈み出した、青年はそろそろ帰るといい教会から出ていった。私も帰ることに決め神父様に挨拶をしてから帰路についた、家に着く頃には断罪室の事しか頭になかった。今日も絶対に開こうと決めていた、ただ二日連続で断罪室を開くのは神父様にバレてしまうかもしれないと思ったから今日は開かず明日開く事にした。そんなことより昨日の朝から何も食べていない、空腹感が限界を迎えていたから冷蔵庫にあったもの料理をすることにした。食べ終わる頃には二十時に回っていた、特にやることもなかったので暇を潰すために本でも読もうとした時だった。チャイムがなった、誰だこんな夜にと思いながらドアを開けるとそこには町の住人である少女が立っていた。
「こんな夜にどうしたの?」
そう訊ねると彼女は顔を赤くし吃りながら話し始めた。
「あ…あの!レオさんの事を教えてください!」
一瞬にして理解した、この娘はレオに惚れている。それで今日話している私を見て情報を引き出そうって訳か、生憎特別な情報はないためそのまま何も知らないと伝えた。すると娘は少し残念そうにしてから一礼して去っていった。脳内に妙案が浮かぶ、罪悪感を得る方法は何も殺人だけではない、誰かを貶めて絶望する表情を見るだけでも十分な快感が得られるのではないのか。そう思った私は次にすることはレオを恋に落としあの娘が絶望する姿をこの目に捉えようと決めた。幸運ながら私は顔もスタイルも町一番と言われる程にはいい、レオの程度にもよるが少しちょっかいをかけるだけで落ちると思う。今回は手軽に気持ちよくなれそうだ、そう浮かれながら明日に備え早めに就寝した。
目を覚ましたのは早朝六時、いつもより少し早めだが身支度を整え教会へと向かった。教会には神父様と楽しそうに話をしているレオがいた、レオはこちらに気付くと微笑みながら手を振ってきた。なぜこんな朝から教会に来ているのかと訊ねてみると彼は「朝のお祈りですよ」と即答した、ということは何事もなければ毎朝教会に来るということ、それなら落とすチャンスなんて巨万とある。とりあえず祈りを済ませた、彼はふざけたりせず真剣に祈っていた。どうやって落とそうか考えているとレオの方から話しかけてきた。
「あの…シスターさん、少し相談があって」
「なんでしょう?あとアイラでいいですよ」
「分かりました。相談っていうのが先日親が亡くなりましてその葬儀の時に着る喪服が小さくて着れないので隣街まで買いに行こうと思っているんですが引っ越してきたばかりでどうにも服屋が分からなくて…それで今知り合いはアイラさんしかいなくて」
「付いてきてほしいってことですか?」
「そうです…あっ!でも嫌だったら…」
「いいですよ」
私が笑顔で承諾すると彼は目を輝かせながら喜んでいた。
「ありがとうございます!」
「いつ行くんですか?」
「出来れば明日にでも行きたいんですけどアイラさんの都合がいい時で大丈夫です」
「じゃあ明日いきましょう」
「いいんですか?」
「いいですよね神父様!」
神父様は無言で頷いた、それを見たレオは先ほどよりもより数段と強い喜びを感じ心が跳ねていた。
「じゃあ明日の朝に駅前に集合しましょう」
「分かりました!」
いい返事をしてからレオを走りながら教会を飛び出し家へと戻っていった。そうと決まれば今日中に服を決めておかなければならないと思い立った、どんな服にしようか考えていた時ふと脳裏に最高の案が浮かんできた。あの娘はファッションに精通しているという噂を聞いた事があるのだ、あの娘にデート言ってコーディネートしてもらおう、その服でレオとデートしているのをたまたま目撃したら恐ろしい程上手くいくだろう。思い立ったが吉日、神父様に用事があったとだけ言って教会を飛び出しそのままあの娘の家に向かった。
ドアを叩くと娘が出てきた、私を見ると共になぜ私が来たのか困惑していた。
「え…?シスターさん?」
「こんにちは」
「何か用ですか…?」
「ちょっと頼みがあるの」
「頼み?」
「あなたに服を選んで欲しいの」
「あ、そういう事ですか」
娘は少し安心したように息をつき、家の中に招いた。服と姿鏡がある部屋に入らされた、その後に何をしに行くかを聞かれたのでデート用の服と答えると何時間もお人形遊びのように着せ替えをされ最終的には下がロングスカート、上はカジュアルな服に決まった。服は借りることになった。
「というかなんで修道着で来たんですか」
「明日行くから出来るだけ早めに服を決めたかったの」
「そういう事ですか…アイラさんはスタイルもいいし顔もいいですし…正直羨ましいです」
「そう?ありがたいけどその分体目当ての男も寄ってくるのよ」
そんな会話をしながら帰り支度をしていた、服もしまい家を出る時に「頑張ってくださいね」と可愛らしい笑みを浮かべながら手を振っていた、私はこの娘が狙っている男を奪うのだと考えると今からでも罪悪感を感じていた。家に着くと完全に日が落ちきっていた、食事を済ませ明日の準備をしてから就寝した。
時刻は五時、夜明けに目を覚ましたアイラはシャワーを浴び軽い朝食を摂り歯を磨き少女に借りた服を着た。その頃には六時半を回っていた、それをみたアイラは急ぎながら家を出て教会まで向かっていった。教会前には既にレオがいた。
「待ちました?」
「いえ僕も今来たところですよ」
「ならよかった。じゃあ行きましょうか」
「はい、行きましょう」
二人は小さな駅に向かい始発の電車に乗って隣街に着くまで談笑しながら揺られていた。流石田舎町といった所で隣街まで片道一時間以上かかるので色々な話をして分かった事が二つあった、一つ目がやはり話が上手い。前にも思ったが本当に話が上手くいつの間にか隣街に着いていた。二つ目は家族がいない。先日死んでしまったのは母親で弟は事故で、父親は老衰で死んでしまっていたらしい。家族が誰もいない青年なんて孤独感も相まって落としやすいだろう。
隣街の駅は朝にも関わらず非常に盛り上がっており普段いる町とは大違いだった、とりあえず駅から出て服屋を探すことにした。私も二ヶ月に一回来るぐらいなので服屋の場所を知らない、数十分捜索してなんとか見つける事ができた。服屋に入り喪服を二着買って店を出た、店を出て時計を見てみると正午だった。レオもお腹が空いたとのことなので喫茶店に入り、食事を済ませるといつの間にか十六時になっていた。帰るのにも一時間かかるのでもう帰る事にして電車に乗り込んだ。町に着き電車を降りた私は徐に彼と腕を組む、客観的に見たら完全にデートをしているカップルにしか見えないだろう。後はあの娘が見ていれば最高だ、そう思いながら歩いていると薄暗い教会から誰かの視線を感じた、そしてその視線はすぐに止み誰かが走っていく音が聞こえた。勝ちを確信した、確実にあの娘だ。レオと別れた私はすぐに家に帰りシャワーを浴びて修道着に着替えた、教会が暗かったという事は神父様はもういないという事、即ち既に断罪室を開くことが可能だ。今日のデートの事なんて頭になくただ罪悪感を求め無我夢中になって教会まで走っていた、予想通り神父様はもういなかった。私はすぐさま断罪室に入り時間が過ぎるのを待っていた、だが今日はいつもより沢山動いたので疲れが溜まっていた、段々と睡魔が押し寄せいつの間にか目を閉じ寝息をかいていた。
コツコツと足音が聞こえたと同時に目を覚ました、誰かが来たと思い姿勢を直し断罪室に入ってくるのを待っていた。数秒するとその人物が部屋に入ってきてそのまま話を始めた。
「あの…ここって」
「断罪室です」
「良かった…じゃあ相談をしたいんですけど」
「どうぞ、悩みを吐き出しなさい」
「私好きな人がいるんです。最近引越してきた人なんですけど優しくてカッコよくて一目惚れしちゃったんです、でもその人がデートしてるとこを見ちゃって…どうしたらいいか分からなくて…」
この話を聞いた時に私はあの娘だと確信した、どう誘導しようか考えた結果レオと娘を殺す事にした。レオを取ってみたが人を殺した罪悪感に勝つことは出来ず不完全燃焼感があった、だったらもう殺してしまおうと思った。
「それは辛かったですね、ではあなたはどうしたいのですか?」
「あの女を殺してレオを手に入れたいです」
その声には明確な殺意を感じた。下手な指示を出したら私が殺されかねない、こうなった場合はできるだけ早く対処するのが賢明だ。
「では明日の日付が変わる時にその女の家に行きドアを叩きなさい、それでドアが開いた瞬間にナイフでそいつを刺しなさい。そうすれば上手く行きます」
そう言うと彼女は元気よく感謝の言葉を述べ断罪室から出ていった。作戦はこうだ、まず明日の夜にレオを誘いドアが叩かれたらレオに対応させて刺されるのはレオだ。あの娘はレオを刺した事を知ったら絶望するだろう、そこを私が殺す。それで裏庭に埋める、こんな作戦でいいだろう。
その後数時間程待ったが誰も来ることはなかったので三時に教会を出て家に帰り死ぬようにして睡眠を取った。
目を覚ますと普段教会に向かう時間だったのでさっさと準備をして教会へと向かった、教会には神父様とレオがいた。私が来たのを確認してから祈りを始めた、祈りが終わった後に私がレオに夜の件の話を持ちかけた。するとレオは嬉しそうに承諾し浮かれながら教会を出ていった。レオが見えなくなると神父様が話しかけてきた
「あまり弄ぶなよ」
「何のことですか?」
「本気であの青年の事を想っていないだろう」
「そんな事ないですよ」
「…まぁいい。仕事に戻るぞ」
神父様は諦めて様な顔をして仕事に戻った、私も続いて仕事を始めた。そういえばあの日を境に子供達が来なくなった、相当ショックだったのだろう、だけど死体は発見されていないし正直私が犯人とバレなければどうでもいい、さっさと仕事を終わらせよう。
つまらない仕事を何時間かして帰路についた、家に帰ってから掃除をした。最近家事をあまりしていなかったから少々時間がかかった、掃除が終わったと同時にノックが聞こえた。ドアを開けるとレオが立っていった。
「きたのね、どうぞ」
「あっお邪魔します!」
レオは緊張しているのか動きがカクカクしていた、何を期待しているのだろうか。年の近い女の家に招かれたのだからそういう事をするのだと思うのもしょうがない、とりあえず夕食を一緒に食べた。時刻は二十一時そろそろあの娘が来る頃だろうと思っていた時だった、ノックが聞こえる。私は皿を洗っていたのでレオに出てくれと頼んだ、数十秒後にあの娘の声が聞こえた。私はすぐさま包丁を持っていった。娘は返り血で真っ赤になっている、レオは心臓部にナイフが刺さって倒れている。
「なんで…なんで!レオが!あんたが!あんたがぁ!」
「綺麗に引っかかったね」
「…は?」
「断罪室で答えたのは私、あれってなんかの細工で声がそのままに聞こえないんでしょう?」
「は?なんで?お前が…は?」
「まぁいいや。じゃあ死んでね。私の罪悪感のために」
そう言って私は直ぐに包丁で何回も刺して完全に息の根を止めた。彼女は刺されながら私への憎みや妬みを叫びながら死んでいった。一様レオも確実に殺しておこうと刺そうとした時に少し声が聞こえた。
「アイラ…さん…好き…だった…のに」
それを聞くと共に何か感じたことの無い感覚を覚えたがそれより先に殺したい、罪悪感を得たいと思って笑いながら刺し殺した。前は山で殺したが今回は普段使っている家での殺人ということでいつもより罪悪感が強かった。
死体をすぐに裏庭に運びさっさと埋めてしまった。固まる前に血を洗い流し完全に証拠を消した、レオは家族がいないという事なので別に大丈夫だが娘は両親がいる、ここ一週間で子供が二人加えて二人が失踪するとなると招集があるかもしれないが私には乗り切る方法がある。
「新しい快楽を求めて恋愛ってのをやってみようと思ったけどやっぱ罪悪感には勝てなかったし結局人を殺すのが最高だなぁ…とりあえず汚れたしシャワー浴びよ」
そう言って鼻歌を歌いながらシャワーを浴び、眠りについた。明日もまた開こう、あの忘れることも出来ない罪悪感を感じるために。そう思いながら悪魔は夢の世界へと堕ちていった。
2.想い子