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1.汚れた少年

断罪室


1.(けが)れた少年


時は現代、ある国の小さな田舎町にポツリと佇む小さな教会、その教会には神父の高齢男性と可憐なシスターが一人いる。田舎町に遊ぶものなんてなく子供達は頻繁に教会に出入りしてはシスターに遊んでもらっている、シスターは面倒見も良く町の大人達からは好印象だった。彼女は今の生活に何の不満もなく楽しい人生を送っていた、だが彼女もまだ若女、好奇心は有り余っている。これはそんな彼女の好奇心が起こした最悪な事件、いやもはや事故に近しい話だ。



私はアイラ・スミス、小さな町にある教会のシスターをしている。高齢の神父様と私だけしかいない教会だけどやっていけてるし町の人は優しいから順風満帆な生活を送れている、だけど一つだけ気になる事がある。一昨日の深夜にたまたま教会の前を通りかかった時に教会の中から話し声が聞こえてきたの、でもどう考えてもおかしい。日付も変わっているのに教会に人がいるわけないしそもそも光もないし、私は不思議になって少し教会に近づいてみたの、すると中からは神父様の声と町の中でも最年長で長年住んでいる熟年夫婦の旦那さんの声が聞こえてきた。耳を澄まして聞いていると


「私はどうすればいいのでしょうか…些細な事で妻を殺してしまいそれを見た孫さえも手にかけてしまった…私はどうすれば…」


「落ち着きなさい、あなたは何も悪く無い。悪いのは死んでしまった奥さんとお孫さんです、あなたは何も悪く無い。ですが死んでしまった事がバレるのも時間の問題、そこで奥さんは足を滑らせ頭を強く打って死んだ、お孫さんは階段から落ちたと言えば誰もあなたがやったとは思いません」


「本当ですか?」


「えぇ、誰もあなたがやったとは思いませんよ」「分かりました。皆にはそう伝える事にします。今日はありがとうございました」


私は何か不気味になって直ぐに逃げたけどどう考えてもおかしい、だって二人とも足を滑らせるなんて事ある訳ない。そう思いたいんだけどあの時の神父様の声は妙に説得力があって安心する声だった、いつもの神父様とはまるで別人だった。だけどそれより怖いのは熟年夫婦の旦那さんでもなく神父様でもない、私が一番怖かった、私はその時人を殺したという事実に恐怖せず二人がどんな風に会話しているのか、旦那さんはどんな顔をして話しているのか、神父様はどんな顔をして聞いているのか、そんな事を考えて性的興奮を覚えた。でも私は清廉潔白なシスターだそんな異常な性癖はないと信じたい…


「シスター!シスター!」


そう叫びながら三人の子供が教会へと走ってきた。この子達はよく教会に来ては私と話したがる、まぁ私ぐらいしか遊び相手がいないのだろうと思い普通に遊んであげている。だがこの子達は普段五人で行動している事が多い、今日は唯一の女の子のルナ・テイラーと一番ヤンチャなノア・トーマスがいない。不思議になって三人に訊ねてみても分からないとしか返事はなかった、まぁ体調が優れなくて家にいるだけだろうと思い子供達と話しているとある話題が浮かび上がってきた。


「そういえば知ってる?ここの教会の噂話」


「知ってる知ってる!なんか夜中に教会に来ると断罪室?って言う部屋があってそこで罪を吐くと得体の知れない誰かがお告げをくれてそのお告げ通りに行動すると全てが上手くいくってやつでしょ!」


私はその話を聞いた瞬間一昨日の夜の事だと思い子供達から情報を引きずり出した。一つ目が罪を吐くとお告げをくださりそのお告げ通りに行動すると何故か綺麗さっぱり無実になる、二つ目が深夜の不定な日にしか断罪室は開けられない、三つ目は断罪室に行った人は近いうちに死んでしまう、この三つだけだった。だけど十分すぎる収穫だった、そして私は二つ目の不定な日と言うところに目をつけた。そこの目をつけた理由はただ一つ、私も断罪室を開きたい。それだけのことだ、当たり前でしょう?あれ程気分が高揚したのは生まれてから初めてだったんだもの、あの感覚は忘れられないわ。でも不定な日にしか行われないと言う事は私が開いている時に神父様が開きに教会にやってくるかもしれない、そうしたら私はどうなってしまうのだろう、そうも考えたがあの興奮を忘れる事なんて出来やしない。私は決心した、今日開こう。そう決めた頃には日が沈みきっていた、神父様に帰りなさいと言われたが私は少し掃除をしてから帰ると嘘をつき教会に残る事にした。何故かと言うと私は断罪室の場所を知らない、開くにも場所を知らなければ不可能というもの、私は軽い掃除をしながら考えた。だけど日々通っているこの教会に隠し部屋なんてあるわけないと分かっているし、地下室はただの倉庫、断罪室だったとしても外にいた私にまで声が聞こえてくるのはおかしい。そう考えていると思いついた。『懺悔室』だあそこなら声が聞こえる可能性もある、というかそこ以外に断罪室として使用できる部屋は無い、そういった結論に至った。

私は怪しまれぬように一度帰る事にした。神父様は教会には住んでいないので確実に教会から出てくる、出てこなかった場合は神父様が断罪室を開くと言う事だろう、その場合は諦め明日にでも開こうと思う。自宅に着いた頃には時刻は二十時を回っていた。自宅から教会への時間は十分程だ、そこから神父様が出てくるのを確認しなくてはいけない、ただ神父様は遅くても二十一時には教会を出ている。だから今から向かわないと神父様が帰宅するかどうかの確認ができないと思いすぐさま家を飛び出して教会の近くに張り込んだ。三十分ほど待っていると教会から神父様は出て行ったのを確認した。時刻は二十一時丁度、私はあの興奮が直に味わえると思い胸が高鳴っていた。神父様が見えなくなったらすぐに教会に入った、普段は感じない夜の教会という物に少し恐怖を感じたがそれよりも早く断罪室を開きたいと言う願いが強かった。まだ数時間もあるというのに私は待ちきれずに懺悔室に入った、普段は神父様が使っている方の部屋に入り椅子に座った。四時間ほど経ったのだろうか私は今か今かと人が来るのを待っていた、すると教会の入り口に一人の足音が聞こえた。来た!と思い断罪室まで辿り着くのを待ち構えた、だがいつまでたってもその人物は教会内を歩き回るだけで断罪室に近づく様子はなかった。もしかしたら部屋の位置が分からないのではと思い勇気を出して言う。


「こちらです」


そう言うと断罪室の場所に気づいたのかゆっくりと近づいている事がわかった、だがその足音は小さかった。その人物は大人ではない事を確信した、そう確信したと同時に断罪室に入室した事も理解した。入室してから三十秒間ほど無言が続いた、その空気に耐えられなくなったのか入室者が口を開いた、その声はまだ声変わりをしていない幼い少年の声だ。


「僕…僕…」


そう唸るような声で喋っているのは毎日のように聞いているノア・トーマスの声だと言うことに気付くのに時間はかからなかった。少年は言葉に詰まったようだ。


「ゆっくりと話しなさい」


そう言うと少年は深呼吸をしてから再び口を開いた。


「僕昨日…人を殺したんです。殺したのは同い年のルナ・テイラーです…だけど僕は殺しただけではないんです…最初は殺す気はなかったんです…」


少年は涙交じりの声でゆっくりと話し始める。


「昨日ルナを僕の家に招いたんです、僕はルナの事が好きだったんです。僕とルナは普通に遊んでいました、だけど僕は我慢できなくなって彼女を襲いました。彼女は嫌がって抵抗したけど僕の力の方が強くてそのまま…気づいたら終わっていたんです、彼女は泣きながら親に言うって、その言葉を聞いた瞬間に僕はバレたらまずいと思って彼女の首を絞めて殺しました…」


そこまで言うと言葉を聞き取る事が難しい程に泣いてしまっていた、だが私は快感で脳が焼き切れそうだった。凄まじいのだ、今までに感じたことのない性的興奮、快楽、絶頂、こんなちゃちな言葉じゃ表すことのできない衝撃、私は更なる快感を得るため少年に語りかけた。


「そうですか。それは惨たらしい事をしたのですね」


「はい…それで…僕バレたくないんです!どうすればバレないように死体を隠せますか」


ただバレないようにするだけなら幾らでも思いつく、だがそんな簡単に終わらせてしまっていいのだろうか?この快感はまだ追求できるのではないか?そう思うと私の好奇心は火を噴いた。どう答えようか悩んだ、どうすればいいのか分からなかった、だからどう事が運べばいいかを考えた。私はもっと強い快感を感じたい、そう思った。じゃあ次のステップだ、どうすれば更に強い快感を得る事が出来るか。それを知るにはまず何故今快感を得ているのかを知らなくてはならない、それは簡単な事だ『罪悪感』だ。私はただ罪悪感が快感になってしまうだけだ、ならばその罪悪感(かいかん)を今より沢山得るにはどうすればいいか。罪悪感というものが発生するには罪を犯す必要がある、なら罪で一番重いものをすればいい。そう結論に至った、となればやる事は一つ『こいつを殺す』。殺すにしても私が殺したとバレたらここで人生が終わってしまう可能性もある、バレないためには人が来ない場所にこいつを誘い出してそこで殺す、じゃあバレない場所とは何処か?ここは田舎だバレない場所など山程あるがこいつが誰にも見られずに死体を連れて来れる場所にしないとこいつを殺すことなんて出来ない。じゃあ近い場所かつバレない場所、一つだ


「では明日の深夜二時に死体を連れてこの教会の裏にある山の頂で死体を埋めなさい」


「わかりました…頑張ってみます」


「さぁ今日はお帰りなさい、明日に備えてゆっくりと休むのです」


「はい。ありがとうございました」


少年は断罪室から出て行き、家へと音を立てずに帰って行った。断罪室には修道着を着ながら悪魔の所業を行い、地獄へと足を踏み込んだ悪女アイラ・スミスが余韻に浸っていた。その顔は罪悪感(かいかん)と満足感でいっぱいだった。

アイラは三十分ほど余韻を楽しんだ後に自宅へと帰りシャワーを浴びてから未だ止まない高揚を感じながら床に着いた。

翌朝アイラの家にはルナ・テイラーの両親が訪ねてきた。用件は「ルナが一昨日から帰っていない」「何か知らないか」という旨のものだった、アイラは全てを知っているが自分の罪悪感(かいかん)の為何も話すことはなかった。そのまま朝食や身支度を整え今日も今日とて教会へと足を運んだ。教会には神父様が先に到着していた、神父様の家にもルナの親が訪ねていたらしく少し落ち込んでいる様子だった。だが神父様は仕事に私情を持ち込まない、いつも通りテキパキと仕事を熟していた。時間が経ち正午を過ぎた頃だった、教会に昨日と同じ三人がやってきた。だが三人は昨日と違い少し暗かった、何かあったのかと聞いてみるとルナがいなくなった事を十歳の子供ながらに重く受け止めているようだった。だが子供というものは時に残酷なのだ、アイラが少し話を振ると三人はいつも通り目を輝かしながら楽しく会話をして夕暮れにはすっかり元気になって帰って行った。

アイラは早めに上がり片道三時間の隣街へと出かけた、目的は酸だ。ただ埋めるだけではすぐにバレてしまうのではと考え酸でできるだけ溶かし小さくする事で少しはマシになるのではと考えたのだ、2Lの酸を買ったアイラはできるだけ急ぎ足で帰路についた、自宅に着くともう夜の十時だ。急いで酸を持って教会の裏の山へと向かった。険しい山道をなんとか登りきったアイラは余韻に浸る暇もなく何処か隠れる場所を探した、近くには隠れる事に非常に適した茂みを発見した。そこに酸と自分の姿を隠した、アイラが体を隠した頃にはもう日付が変わっていた。待ち時間は非常に短く体感十分もないぐらいだった、少年は大きなシャベルと動かない少女を担いで山の頂へと到着した。少年は疲れたようで少し休憩をしてから穴を掘り始めた。アイラはというとこれから起こることを妄想して興奮していた。

少年の体が半分ぐらい埋まる程度の穴が掘れた、アイラはもう我慢出来ないと茂みからゆっくりと飛び出した。少年は驚き、動きを止め音のなる方を見る。そこには修道着を着ながらまるで発情しているような顔をしているシスターを見て思考が止まった。


「…なん…でシスターが?」


「なんでってあなたにお告げを与えたのは私だもの」


「え?あの声がシスター…?」


どうやら少年にはアイラの声に聞こえないようだ、何か仕掛けがあるのかあの部屋に入った者の耳はおかしくなってしまうのだろうか。


「まぁそんなことより私思ったの、あなたを殺せば私は罪悪感(かいかん)を得られるんじゃないかって」


「え?」


「だからほんとーに申し訳ないけど今から君を殺すわ」


少年は何を言っているのか理解が追いつかず頭に?を浮かべ硬直していた、そんな少年の心臓にアイラはナイフを突き刺した。少年はゆっくりと自分の胸部を確認した、そこには自分の心臓に確実に刺さっているナイフがあった。アイラはナイフを抜き今度は脇腹を突き刺した、少年は声すら出せずただもがき苦しんだ。そんな少年を見て罪悪感(かいかん)に浸り少年をメッタ刺しにした。少年は至るところから血を吐き出しながら苦しみ息を引き取った。アイラは少年の死にゆく様を見て長い、とても長い絶頂をした。そして余韻が完全に治ってから大量の酸で少年と少女を溶かし、穴に埋め下山した。自宅へと帰るアイラは次はどう殺してやろうか、それしか頭になかった。


この日アイラ・スミスはシスターという身分を、信頼を、倫理観を、人を捨て『悪魔』になった


1.汚れた少年

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